「千葉県産業情報ヘッドライン」バックナンバー
【連載特集】
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
◆ 連 載 ◆
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
消費税改正〜軽減税率への対策について〜
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
第1回 消費税改正の内容について
□ 消費税改正の時期
平成31年(2019年)10月1日から、消費税等の税率の引上げと軽減税率制度が実
施されます。前回増税である消費税等の税率が8%の引上げが決定されたときには、
すでに二段階で税率を引き上げることが決定されていました。当初は、平成27年10
月1日において10%の税率への引上げが行われることとなっておりました。
しかし、10%への税率の引上げは、2度ほど延期されています。まず平成29年4月
1日から適用と改正され、その後、再度平成31年(2019年)10月1日から適用と改正
されました。そのような経緯から、今回も延期されるのではないかとご質問をいた
だくことがありますが、具体的な施策が検討されていることから、今回は実施され
ると見込まれます。また、実施しないとするためには税制改正が必要であり、行わ
れなければ、そのまま実施されます。
安倍首相の発言でもリーマンショック級の事態が起きない限り、実施するとのこと
ですし、プレミアム商品券や、ポイント還元などを利用して景気対策が考えられて
います。
□ 消費税改正点の概要
消費税及び地方消費税の税率が8%から10%に引き上げられると同時に、消費税の
軽減税率制度が実施されます。軽減税率の導入は、これまでの単一税率制度から複
数税率制度への変更となり、我が国の消費税制度として大きな変更点となります。
複数税率となると、消費税の計算だけでもそれぞれ税率ごとに管理することが求め
られているので、2倍以上の手間がかかることになります。
軽減税率制度導入については、中小事業者を対象として、計算を簡便にする特例
が経過的に設けられています。具体的には、売上税額を簡便に計算する方法が軽減
税率導入から4年間、仕入税額を簡便に計算する方法が軽減税率導入から1年間設け
られています。
軽減税率制度導入は、帳簿や請求書の保存方式についても新しい方式を求めてい
ます。それは、平成35年(2023年)10月から適格請求書等保存方式(いわゆる「イ
ンボイス制度」)の導入です。複数税率制度への対応を考え、現行の帳簿及び請求
書の記載から変更されることになります。
なお、軽減税率制度導入から平成35年(2023年)9月30日までの4年間は、区分記
載請求書等保存方式とされます。いきなり適格請求書等保存方式に変更することは
難しいので、4年間は区分記載請求書等保存方式という現行から移行しやすい経過
的な方法をとっています。
4年後の平成35年(2023年)に導入される適格請求書等保存方式とは、登録した課
税事業者(売り手)が適格請求書等を発行し、それを事業者(買い手)が保存する
方式です。それによって、免税事業者や消費者からの課税仕入れは、仕入税額控除
の対象とならないことになります。
また、「消費税転嫁対策特別措置法」も延長され、平成33年(2021年)3月31日ま
でが実施期間となります。
□ 軽減税率制度とは
平成31年(2019年)10月1日に、標準税率を10%、軽減税率を8%とする複数税率
制度に移行します。
軽減税率の対象となるのは、下記の3点の譲渡です。
1.飲食料品の譲渡
飲食料品(食品表示法に規定する食品をいい、酒税法に規定する酒類を除く。)
の譲渡をいいます。
ただし、飲食店業等を営む者が行う食事の提供(外食、ケータリングなど)を除
きます。
2.新聞の譲渡
一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載す
る新聞(1週に2回以上発行する新聞に限る。)の定期購読契約に基づく譲渡をいい
ます。
一定の題号とは、○○新聞、日刊○○などの新聞の題号をいいます。
3.飲食料品の輸入
保税地域から引き取られる課税貨物のうち、上記1の飲食料品に該当するものを
いいます。
軽減税率の対象となる品目の概略です。
さて、次回は具体的に軽減税率の対象を見ていきましょう。
第2回 軽減税率について
前回は軽減税率の対象の概略をお話しました。今回は、具体的に解説していきま
す。
□ 軽減税率の対象品目について、具体的に見てみましょう。
軽減税率の対象品目は、「飲食料品」と「新聞」です。
・飲食料品
飲食料品(食品表示法に規定する食品)の譲渡がその対象です。
ここでいう「飲食料品」とは人の飲用又は食用に供される下記のものをいいます。
(1)米穀や野菜、果実などの農産物、食肉や生乳、食用鶏卵などの畜産物、魚類
や貝類、海藻類などの水産物
(2)めん類・パン類、菓子類、調味料、飲料等、その他製造又は加工された食品
(3)添加物(食品衛生法に規定するもの)
(4)一体資産のうち、一定の要件を満たすもの
上記のうち、酒税法に規定する酒類、医薬品、医薬部外品、再生医療等製品を除
きます。また、外食、ケータリング等によるものは、軽減税率の対象となる飲食料
品の譲渡には含まれません。
・新聞
軽減税率の対象となる「新聞の譲渡」とは、週2回以上発行されること、定期購
読契約であることが要件とされています。つまり、コンビニエンスストアで新聞を
購入しても軽減税率の対象とはなりません。
また、スポーツ新聞や、日本語以外の新聞でも要件を満たしていれば軽減税率の
対象になります。しかし、最近よく利用されているインターネットを通じて発信す
る電子版の新聞については、「電気通信利用役務の提供」に該当することから、軽
減税率の対象とはなりません。
□ 持ち帰りかイートインかは、意思表示で決まる。
軽減税率の対象となる飲食料品には、外食とケータリングは含まれません。具体
的に「外食」とは、飲食店営業等、食事の提供を行う事業者が、テーブル・いす等
の飲食に用いられる設備がある場合において、飲食料品を飲食させるサービスのこ
とをいいます。
外食に該当するかどうかは、場所要件とサービス要件を満たすかどうかで判断し
ます。飲食の設備とは、その規模や目的を問いませんので、例えばテーブルのみ、
いすのみ、カウンターのみでも飲食に用いられていれば、飲食設備に該当します。
具体的には、レストランやフードコートでの食事の提供が「外食」に該当します。
しかし、飲食店業の事業を営むものであっても、いわゆる「テイクアウト(持ち
帰り販売)」などという、飲食料品を持ち帰りのための容器に入れ、又は包装をし
て行う譲渡は、軽減税率の対象となります。飲食させる役務の提供にはあたらない
単なる飲食料品の販売であるからです。
「外食」にあたるのか、「テイクアウト(持ち帰り販売)」にあたるのかどうか
は、飲食料品を提供する時点で、顧客に意思確認を行うなどの方法により判定する
ことになっています。
ファーストフード店などでは、「店内でお召し上がりですか?」と声をかけられ
ますが、その返答によって、どちらの税率を採用するか判断されることになります。
イートインスペースのあるコンビニエンスストアでも意思確認を行う必要があり
ます。コンビニエンスストアでは、「イートインスペースで飲食される場合は、お
申し出ください。」などと提示を行う方法で、意思確認を行うことが出来ることと
なっています。
「外食」とともに軽減税率の対象から除外されている「ケータリング」とは、相
手方が指定した場所で飲食料品の提供を行う加熱、調理又は給仕等の役務の提供を
行うものです。出張料理とも呼ばれます。
これに対して、相手方が指定した場所で加熱したり給仕をしたりしない、いわゆ
る出前や宅配は、単に飲食料品を届けるだけであるため、「飲食料品の譲渡」に該
当し、軽減税率の対象となります。
また、老人ホームでの飲食料品の提供、学校給食などについては、一定の要件を
満たすことで軽減税率の対象となります。
□ 飲食料品と新聞、うちの会社には関係ない?
飲食料品と新聞を取り扱っていない事業者は、軽減税率については大きな影響は
少ないと考える方も多いと思います。
しかし、会議費や交際費として、飲食料品である飲料水やお茶、お菓子を購入す
る事はあるでしょう。
また、新聞の定期購読の契約をすることもあります。それらの軽減税率対象品目
については、区分して帳簿に記載する必要があります。新たに業務に加わる作業と
しては、売上及び仕入について適応税率別の記載、仕入時の納品書や請求書の表示
確認が必要となります。また、消費税の申告についても税率ごとに区分して消費税
第3回 経過措置のいろいろ
□ 税率引上げに伴う経過措置
平成31年(2019年)10月からの消費税率の引上げについては、経過措置適用対象
取引についても注意する必要があります。前回の5%税率から8%税率への変更が行
われた平成26年4月の場合とほぼ同様の経過措置が適用されます。工事等の請負契約
やリース取引については、契約締結日が31年指定日(平成31年(2019年)4月1日)
の前か後かにより、適用税率が異なってきます。
税率の引上げに伴う経過措置は大きく3つに分けることが出来ます。
(1)31年指定日(平成31年(2019年)4月1日)の前日までに譲渡契約等を行った
ことにより適用されるもの。
(2)31年施行日(平成31年(2019年)10月1日)にまたがる取引について適用され
るもの。
(3)消費税計算について留意すべきこと。
(31年施行日前に行った取引について、31年施行日以後に一定の計算を行う場
合には、旧税率を適用する。)
特に(1)については、指定日の前日までに契約を済ませる必要がありますが、
指定日とされるのが平成31年(2019年)4月1日となっています。
契約を指定日以前に行うことによって、提供を受けるのが施行日である平成31年
(2019年)10月1日を過ぎても、8%税率が適用されます。
しかし、平成31年(2019年)3月31日までに契約をしなければ、この経過措置を
受けることが出来ないことになってしまいますので、該当する契約を結ぶ必要があ
る場合には早めの検討をお願いいたします。
(1)に該当する経過措置として、工事の請負契約に基づく課税資産の譲渡、資
産の貸し付け契約(リース契約)に基づく資産の貸し付け、冠婚葬祭などに関する
契約に基づく役務の提供、書籍などの予約販売、通信販売による商品の販売、有料
老人ホームに係る終身入居契約に基づく役務の提供が挙げられます。
□ 中小事業者の税額計算の特例
税額計算の特例は、基準期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者
に限って措置されることとなっています。以下に内容をくわしく記載していきます。
□ 売上税額の計算の特例
中小事業者において、国内において行う課税資産の譲渡等を税率の異なるごとに
区分することにつき「困難な事情があるとき」は、次の方法により、売上税額を計
算することが出来ます。
(1)軽減売上割合の特例
この特例は、通常の連続する10営業日の課税売上に占める同期間の軽減税率の対
象となる課税売上を計算し、その割合(軽減売上割合)を使って、課税期間の売上
税額を計算する方法です。軽減対象資産の譲渡を行う中小事業者であれば、業種に
関係なく適用することができます。
この場合の通常の連続する10営業日とは、この適用を受けようとする期間内の連
続する10営業日であればよく、いつであるかは問いません。10営業日の売上を標準
税率と軽減税率の区分が出来れば、申告できることになります。
(2)小売等軽減仕入割合の特例
この特例は、課税仕入について税率ごとに管理できる卸売業又は小売業を営む事
業者で、簡易課税制度の適用を受けないときに適用する事が出来ます。この場合の
卸売業又は小売業とは、消費税の簡易課税制度における事業区分と同じになります。
課税仕入における標準税率と軽減税率の割合(小売等軽減仕入割合)を用いて、
売上税率を計算します。
(3)上記(1)及び(2)の割合の計算が困難な場合
上記(1)及び(2)の計算が困難な中小事業者であって、主として軽減対象資産
の譲渡を行う事業者は、これらの割合を50/100とする事が出来ます。
これらの売上税額の計算の特例を適用出来る期間は、課税期間のうち、平成31年
(2019年)10月1日から平成35年(2023年)9月30日までです。適用が出来るうちに
区分経理できる態勢を構築しなくてはなりません。
□仕入税額の計算の特例
課税仕入れ等を税率の異なるごとに区分して合計することが困難な事情がある中
小事業者は、次の2つの方法により仕入税額を計算する特例が認められています。
(1)小売等軽減売上割合の特例
卸売業及び小売業にかかる軽減対象資産の譲渡等の対価の額を区分して計算した
割合(小売等軽減売上割合)を用いて、軽減税率の対象となる課税仕入等を算出し
て、仕入税額を計算することが出来ます。
(2)簡易課税制度の届出の特例(事後選択)
通常の場合、簡易課税制度の届け出は、簡易課税を開始する課税期間の開始の日
の前日までに提出しなければなりません。しかし、この特例では、課税期間が開始
されてから提出してもその課税期間を簡易課税とすることが出来ます。
これらの仕入税額の計算の特例を適用出来る期間は、課税期間のうち、平成31年
(2019年)10月1日から平成32年(2020年)9月30日までです。1年間のみの特例にな
ります。
次回は準備のための補助金制度についてお話いたします。また、消費税増税に伴
う需要の下降に伴う景気対策として導入される住宅ローン控除の拡充や住宅取得等
資金の贈与についてもお話いたします。
第4回「消費税改正に伴うさまざまな制度」
□ 軽減税率対策補助金(レジ導入補助金)
今回の消費税増税は、単なる増税だけでなく、軽減税率制度導入という大きな制
度改革を含んでいます。飲食料品を取り扱う事業者においては、レジや受発注シス
テムなどを変更する必要があります。
複数税率対応レジの導入や受発注システムの改修の経費の一部を補助する軽減税
率対策補助金制度が設けられています。
軽減税率対策補助金には、A型(複数税率対応レジの導入等支援)とB型(受発
注システムの改修等支援)の2つの種類があります。
A型は、複数税率に対応できるレジを新しく導入すること、又は対応できるよう
に既存のレジを改修したりするときに使える補助金です。平成31年(2019年)9月
30日までに導入・改修、支払を完了し、平成31年(2019年)12月16日までに補助金
を申請する必要があります。
B型は、電子的な受発注システムを利用する事業者のうち、複数税率に対応する
ために必要となる機能について、改修・入れ替えを行う場合に使える補助金です。
B-1型は、代理申請となっており、平成31年(2019年)9月30日までに事業を完了
することを前提として、平成31年(2019年)6月28日までに交付申請を行う必要が
あります。
B-2型は、補助対象となるパッケージ製品・サービスを事業者自ら購入し、導入
(支払いの完了を含む)する期間は、2019年9月30日までとなっています。
なお、B-1型は、完了報告書の提出が必要で、期限は平成31年(2019年)12月16日
までです。
こちらも期限が迫っておりますので、まだ申請していない飲食料品を取り扱う事
業者は再度検討をお願いいたします。
□ 消費税転嫁対策特別措置法
消費税転嫁対策特別措置法の実施期間は、平成33年(2021年)3月31日まで延長
されています。前回の5%から8%への税率引上げ時に施行された法律で、平成25年
10月1日に施行されたもので、内容は変更されておりません。消費税の転嫁拒否等
の行為の是正に関する特別措置、消費税の転嫁を阻害する表示の是正に関する特別
措置、表示に関する特別措置などがあります。
□ 消費税増税による需要喚起のための制度
消費税の増税の直前は、駆け込み需要が多く、その後の景気の冷え込みが懸念さ
れています。そのため、消費税そのものの制度ではないのですが、いくつか優遇的
な制度が設けられていますので、参考にしてください。
・住宅ローン減税
従来からある住宅ローン控除ですが、最大で10年間で500万円の住宅ローン控除が
受けられます。平成33年(2021年)12月31日まで入居の場合に適用されます。
さらに、消費税率10%が適用される新築・中古住宅の取得、リフォームで平成32
年(2020年)12月末までに入居した方については、現行の住宅ローン減税について
控除期間を3年間延長(10年⇒13年)されます。適用年の11年から13年目までは、建物
購入価格の消費税2%分を上限とします。
・住宅取得等資金の贈与税の非課税
父母や祖父母等の直系尊属から、住宅取得資金の贈与を受けて住宅を取得した場
合、消費税率10%が適用される新築・中古住宅の取得、リフォームで平成31年(2019年)
4月から平成32年(2020年)3月末までに契約を締結すれば、贈与税が最大3,000万円
まで非課税となります。
なお、経過措置などで消費税率8%が適用される場合でも適用はありますが、この
場合は最大で1,200万円まで贈与税が非課税となります。
・すまい給付金
所得制限が緩和されたことにより対象者が拡充されます。おおむねの収入額で現
行の510万円以下から775万円以下になります。現行の給付金、最大30万円から最大
50万円に増額されます。住宅ローンの利用でも現金での取得でも給付の対象になり
ます。対象者は、消費税率10%が適用される新築・中古住宅の取得で平成33年(2021年)
12月末までに引渡しを受け、入居した方が対象になります。
・新たなポイント制度の創設
一定の省エネ性、耐震性、バリアフリー性能を満たす住宅や家事負担の軽減に資
する住宅の新築やリフォームに対し、商品と交換可能なポイントを付与します。
対象者は、消費税率10%が適用される新築住宅の取得、リフォームで、平成32年
(2020年)3月末までに請負契約・売買契約の締結、着工をした方となっております。
上記のうち、贈与税の非課税については、大きな減税になりますので、相続税対
策などをお考えの方は検討されると良いと思います。その他自動車税についても消
費税増税に関係した減税が検討されています。
軽減税率制度という複数税率制度により、我が国の消費税はさらに複雑になって
いきます。事務負担も増加すると思いますし、心配なことが多いと思います。まず
は改正の概要を知っていただいて、出来ることから対策をしていくことが大切だと
思います。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
明誠税理士法人 代表社員 増保雪絵(税理士)