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千葉県産業情報ヘッドライン【連載特集】「採用と定着(職場活性化)を連動した中小企業独自の新しい人材育成術」バックナンバー

  • [2023年3月17日]
  • ID:3392

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   採用と定着(職場活性化)を連動した中小企業独自の新しい人材育成術

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 第1回「今後の採用成功のキーワードは「定着」」

 みなさん初めまして。トリムタブの岸守と申します。

リクルートではずっと人材畑で企業様の採用&育成支援や制度設計などを行っ

てきました。リクルート出身で独立している人は多いのですが、私の特徴は、

GCDFというキャリアコンサルタントの養成講座の運営業務を通して、学生

やフリーター・ニートなど個人側の求職者支援も並行して行ってきたこと。そ

して2004年小泉政権の時代に生まれた若者専門の就業支援施設「Jobカフェ」

の運営をきっかけに、独立後も千葉県を中心に大阪府・鳥取県などの自治体と

組んで公共事業にも携わってきたので、公共と民間の効果的な連携の在り方、

企業側の視点だけでなく個人(従業員や求職者)側の支援も並行して行うこと

により、多角的な視野から若者と中小企業の新しいマッチングモデルの開発に

携わってきました。今回の全6回の連載では、それらの経験で得た成功・失敗体

験をもとに、中小企業独自の新しい人材採用&育成の方向性に関してお伝えで

きればと思います。できるだけ難しい用語を排除し、実践的な内容にしたいと

思いますのでおつきあいくださいませ。

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過去の成功体験が通用しなくなっていく!!

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 毎年厚生労働省や人材会社などから発表される「求人倍率の推移」を見ると、

2008年に発生したリーマンショックを底に、年々右肩上がりで推移しています。

これが中小企業の人事担当者から聞く「今までは何とか採用できていたのに、

年々応募者の質・量が減って採用が難しくなってきた」と言われる原因です。

 求人倍率は景気の変動と連動して波を打っているので、いずれ景気の低迷に

伴って求人倍率も下がり、中小企業でも採用しやすい時代が来るという考え方

もありますが、少子化に伴う労働人口の減少などにより、景気の変動と関係な

く高止まりするのではないかという見方が一般的です。実際に直近数年はコロ

ナの影響で求人倍率は一時的に下がりましたが、すでにコロナ以前の状況に回

復しつつあります。

 つまり、従来のように世の中の流れを待っていても中小企業の採用が好転す

る未来は訪れない危険性が極めて高いので、今まで成功してきた採用手法を根

本的に見直さなければいけない時期に来ていると感じます。

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採用が難しいのは、大手企業と比べて処遇面が悪いことが原因なのか?

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 採用が困難な原因として、大手企業と比べ給料や勤務時間・休日など処遇面

を課題に挙げられる人事担当者が多いと思います。確かにマスコミなどで「若

者の大手安定志向」という言葉が飛び交い、実際に合同会社説明会などに行け

ば、大手企業や知名度の高い企業に応募者が殺到している姿を見かけます。

 しかし、実際に若者の就職相談に乗っている私から言わせてもらえば、彼ら

から「大手企業に行きたい」という言葉はほとんど聞いたことがありません。

彼らの多くは「入社した会社で長く働きたい(安定した仕事につきたい)」と

求めているだけです。ただ、「どんな会社だったら、長く働けると思うか?」

と突っ込んで問いかけると、給料や福利厚生、勤務時間や休日などの処遇面を

挙げる人がほとんどです。つまり、彼らは経験や情報が少ないために、「安定

した仕事=大手企業」と思い込んでいるだけなのです。したがって、「自分の

会社に入社すれば、安定して長く働くことができる」と具体的なイメージを持

たせることができれば、不人気業界や小さな事業規模、処遇面で見劣りする企

業でも人材を確保するチャンスはあるということです。

 実際に私が担当する介護施設の若手社員が、会社PRの場面で「僕も皆さん

と同じように就活では介護施設などには全く興味がなく、別の業界を目指して

いました。しかし大学4年の1月になっても内定が1つもなくあきらめかけてい

た時に、たまたま近所の介護施設の求人募集を知り、ダメ元で応募したら今の

施設に内定をもらいました。ただ、入社後知ったのですが、自分のように介護

に全く興味がない人が新卒で入社して、3年以内に辞めた人は1人もいません。

大手企業でも入社3年以内の離職率が20%なのに、当施設は0なのです。」

という話をした瞬間に、今まで全く興味を示していなかった学生たちの顔が上

がり、多くの人が企業ブースに訪れてくれました。

 この一例が示しているように、求人倍率が厳しい時代でも、「定着率」さえ

上がれば、若手の作用は成功できると私は考えます。

 そこで今回の連載は、私のコンサルティングの実例などを基に、採用と定着

(職場活性化)を連動した新しい人材育成術をご紹介していきたいと思います。

第2回「処遇面を改善することなく「定着率」を上げる方法」

第3回「「ヒト・モノ・カネ」を管理する従来型のマネジメント方法からの脱却」

第4回「個々の部下にあわせた「やる気を引き出すメッセージ開発」」

第5回「「求心力」から「遠心力」を使ったマネジメントへの転換」

第6回「1分を刻むボトムアップ型生産性向上術」


 第2回:処遇面を改善することなく、定着率を上げる方法

 株式会社トリムタブの岸守です。

 第1回では、これからの採用成功のキーワードは「定着率」にあるという話を

しました。それではどのくらいの数値を目標にすればよいのでしょうか。

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定着率の目標数値は?

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 まず最初に注目すべき数字は、新規学卒者を中心とした「入社3年以内の離職

率」です。なぜなら最近民間の求人メディアや学校の求人票などでは「直近3年

間の入社者数と離職者数(離職率)」を記入するフォーマットが多くなってきて

おり、今後は求人情報に従来の給与・勤務時間・休日などと同様に「入社3年以

内の離職率」を明示することを義務付ける方向に向かっています。したがって、

入社3年以内の離職率が高い会社は、今後たとえ他の労働条件が良くても採用は

厳しくなることが予測されます。

 そこで、新卒・中途にかかわらず、「入社3年以内の離職率」を会社として定

点観測し、経営者や現場責任者も巻き込んで改善に取り組んでいくことが重要に

なると考えます。数値目標の目安は、毎年厚生労働省が業種や従業員規模、学歴

別に平均数値を発表しているので、それを参考にされるとよいでしょう。

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00004.html

 一般的に若年早期離職率は子供の七五三になぞらえて、「七五三現象」と呼ば

れてきました。中卒の7割・高卒の5割・大卒の3割(専門・短大の4割)が入社3

年以内に離職している現象が過去20年近く変わっていない状況が続いているので、

そう呼ばれるようになりました。したがって、将来の採用に悪影響を及ぼさない

防止策として、まずはこの数値を最低目標とするのが第1ステップではないかと

考えます。

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労働条件を変えずに離職率を改善する新しい手法とは?

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 一般的な離職率を改善する手法は、「労働環境の改善」を目的として、各社の

現状の課題にあわせて、評価制度の改定(成果報酬の導入など)や労働生産性の

向上に関する具体的な提案を行います。しかし、多くの中小企業では、給料を上

げるための原資である売上や利益が確保できなかったり、慢性人手不足で残業や

休日出勤を減らすほどの仕事の効率化は困難な場合が多いのが現実ではないでし

ょうか。

 そこで、当社ではこれら労働条件を改善することなく、離職率を改善する新し

い手法を提案して、成果を上げています。それは、現場の社員1人1人を取材し、

各社独自の「活躍する人物タイプ」と「能力は高くても早期離職リスクの高い人

物タイプ」を明文化し、それに伴う採用・育成手法を導入することです。

 例えば、ある工場では業績は好調で売上高は右肩上がりですが、それに伴う人

材確保ができず、残業・休日出勤が多くあるため、せっかく有料求人メディアを

使って採用した人も、「こんなに残業が多いとは思わなかった」と入社3年で半

数以上の人が早期離職してしまう状況でした。

 そこで、学校訪問の5分間PRの際にその事実を赤裸々に語り、「お金よりも

時間が大事という人には向いていませんが、残業してでもお金を稼ぎたいという

人には、残業・休日出勤手当を含めると求人票の給与表示の2倍以上のお給料が

もらえるので、大卒の初任給よりもはるかに高く20代で家や車を買っています」

という話をすると、9割以上の人からは「ブラック企業だ」とひかれてしまいま

すが、中には「大学に行くほどのお金もないし勉強も嫌いだけど、大卒には負け

たくない」という人もいて、とても興味を持ってもらえることがあります。結果

的に応募者は激減しますが、10校ほど回れば有料メディアなど使用しなくても年

間10人程度は採用でき、さらに覚悟を決めた人ばかりなので、入社後3年以内の

離職率は1割以下に下がったというケースもあります。

 このように、一般の9割の人に嫌われても、それぞれの会社で長く活躍できる

人物タイプに限定してメッセージを発信し、それに合わせたマネジメントを行う

ことで、労働条件を改善しなくても劇的に採用や定着率を改善することができる

のです。ダイバーシティに代表されるように、多様な価値観の人を大量に採用し

て、適材適所に配置しながらジョブローテーションでキャリアを積ませる大手企

業と異なり、若干名の採用人数を限定された部署に配属する中小企業だからこそ

成立する独自の手法として好評を得ています。

 次回は会社独自の人物タイプを限定する具体的な手法についてご紹介します。


 第3回:ヒト・モノ・カネを管理するマネジメントからの脱却

 株式会社トリムタブの岸守です。

 前回、現場の社員1人1人の取材を行い、各社独自の「活躍する人物タイプ」

と「能力は高くても早期離職リスクの高い人物タイプ」を明文化し、それに伴

う採用・育成手法を導入することで、労働条件(給与・勤務時間・休日など)

を変えずして離職率を改善する方法をご紹介しました。

 それでは、何を取材すれば、会社独自の人物タイプを明文化することができ

るのでしょうか?

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6タイプ分類を活用して、定期面談の中で社員キャリアアンカーを明確にする

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 上司と部下の間で定期面談を行って、査定のフィードバックなどを行ってい

る会社は多いと思います。その面談の中で、部下1人1人のキャリアアンカーを

明確にします。

 キャリアアンカーとは、組織心理学者のシャイン博士がキャリア理論の中で

提唱した「個人がキャリアを選択する上で絶対に譲れない軸となる価値観や欲

求・能力などを人生の軸(アンカー)としてたとえた言葉です。しかし、現実

問題として社員1人1人が「自分が働く上で一番大事にしているものは?」と上

司から問われて、すらすらと言葉にできる人はほとんどいないと思います。

 そこで当社では、経験が浅い若者でも気軽に選択しやすいように、次の6タ

イプに分類して選択できるようにして、そのタイプごとに具体的な内容を取材

することで、キャリアアンカーを明確にする方法を推奨しています。

(1)企業型・・・希望の企業に所属することが1番大事なタイプ

(2)職場型・・・一緒に働く仲間との人間関係を1番重視するタイプ

(3)仕事型・・・希望の仕事を行うことができることが1番大事なタイプ

(4)処遇型・・・処遇の良さ(給与、福利厚生など)を1番重視するタイプ

(5)成長型・・・自己成長できる機会や環境を1番重視するタイプ

(6)生活型・・・プライベートの充実や家族の期待を重視するタイプ

 昨年千葉県の事業で上記の6タイプ分類を活用して、自分の価値観にあった

企業を探索できる小冊子を作成して、県内の高校・専門学校・大学などに配布

しました。ご興味がある人は、下記からダウンロードしてくださいませ。

「本当に人を大事にしている会社の見分け方2021年度版」

https://chiba-saiyoryoku.jp/education/#dl

 社員1人1人のキャリアアンカーを明確にすれば、社内で活躍している人物や

早期離職してしまった人物がどのようなタイプが多いのか集計分析して明文化

することが可能になると考えています。

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モチベーションリソースを管理するマネジメント

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 現在多くの研修で、「マネジメントとは、ヒト・モノ・カネ(・情報など)

を管理すること」と定義されています。具体的には、次の3つの機能を適切に

行うことで個々のメンバーを管理することがマネジメントとされています。

(1)個々のメンバーの能力に応じた役割分担

(2)個々の業務を遂行するにあたって必要なアドバイス

(3)個々の業務の成果に応じた評価(昇給・昇格など)

 つまり、「本人の能力をストレッチさせるような業務を与え、成果が出るた

めの的確なアドバイスを行うことでサポートを行い、その成長・成果に応じた

報酬を与えることでモチベーションを維持する」という手法です。

 しかし、最近の若者は価値観が多様化して、必ずしも「昇進・昇格を望まな

い」という若者も多くなっています。例えば「責任が重い仕事は嫌なので、リ

ーダーになりたくない」という若者に対しては、上記のマネジメント手法は通

用しません。

 そこで、社員1人1人のキャリアアンカーを明確にして、それに応じた新しい

マネジメント手法が必要になるわけです。

 次回は新しいマネジメント手法の具体例について紹介します。


 第4回:個々の部下にあわせた「やる気を引き出すメッセージ開発」

 株式会社トリムタブの岸守です。今回で第4回目となります。

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管理型マネジメントからキャリア開発型マネジメントへの転換

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 前回の最後に触れたように、多くの研修で実施されている「ヒト・モノ・カ

ネ・(情報など)を管理するマネジメント手法」は、高度経済成長期に終身雇

用・年功序列を前提として確立された手法です。つまり、細かな手段は研修に

よって異なりますが、「会社のために上司の指示通りに一生懸命頑張れば、会

社の業績は上がり昇給・昇格することができる」ということを前提としたシス

テムなのです。

 しかし日本経済は「失われた30年」と呼ばれる停滞期が続き、終身雇用・年

功序列の崩壊が叫ばれています。そんな中、会社や上司の指示に従って頑張っ

ても業績は必ずしもあがらず、社内で昇給・昇格が保証される状況ではありま

せん。さらに若者の価値観は多様化して、仕事よりもプライベートの充実を優

先したり、「責任が重くなるからリーダーになりたくない」という若者が増加

しています。このような労働環境の変化に伴って、従来の管理型マネジメント

では対応できない人材が多くなってきているのだと考えます。

 そこで最近は、従業員個々の「キャリア自律」を促し、個々の従業員がやり

たいことと会社が求めることを調整・統合できるメッセージを開発することが

できる管理職が求められてきました。詳しく知りたい方は、下記の慶応義塾大

学花田光世先生のコラムなどを参照してください。

花田 光世氏コラム

【硬直化した 人事概念を捨て「キャリア自律」を成功させた企業が生き残る】

https://www.pro-bank.co.jp/saiyo-meister/special-interview/carrier-autonomy_success

  このような考え方を一言で言うと、「会社のために頑張って業績に貢献すれ

ば、昇給・昇格で報いてやる」というメッセージではなく、「会社のためでは

なく、自分自身のやりたいことの実現や成長のために頑張れ。個々の成長が結

果として会社全体の成長につながる」という趣旨のメッセージを、各管理職が

個々の従業員との仕事のやりとりの場面で発信することが求められてきます。

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6タイプ分類にあわせたメッセージ開発

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 前述のような「キャリア開発型マネジメント」を実現するためには、次の3

つの機能が中心となります。

(1)定期的な面談の中で、部下一人ひとりのキャリアアンカーを明確にしてキ

ャリア自律を促す。

(2)個々の業務発注時には、それぞれのキャリアアンカーにあわせて、仕事の

意味や価値・成長ポイントを理解させる。

(3)部下が仕事や今後のキャリア(転職など)で悩んでいる時には、会社の事

情を押し付けるのではなく本人の「市場価値」を意識させたアドバイスを行う。

 最近は「キャリアコンサルタント」が国家資格となり、様々な養成講座があ

るので、新しいマネジメントへの転換を目的として、人事部や管理職に資格取

得を推奨するケースも散見されます。弊社では前回ご紹介したように、キャリ

アアンカーを6つのタイプに分類して、それぞれのタイプに応じたメッセージ

開発を行うことを推奨しています。

「本当に人を大事にしている会社の見分け方2021年度版」

https://chiba-saiyoryoku.jp/education/#dl

 ここで注意が必要なのは、部下だけでなく管理職自身のキャリアアンカーも

明確にして、部下との違いを意識したメッセージ開発を行うこと。例えば上司

が「職場型」の場合、意識をしていないと「みんなで頑張ろう」、「みんなが

困っているので助けてほしい」というメッセージを発信しがちです。同じ「職

場型」の部下ならば、共感してくれるでしょうが、「処遇型」や「生活型」だ

と全く刺さりません。

 さらに、新卒など就業経験が少ない若者の場合、中高年と異なり、まだキャ

リアアンカーが固まっていないので、本人の申告に合わせたキャリアアンカー

に対応したメッセージ開発だけでなく、会社が理想とする人物タイプに変化さ

せるようなメッセージ開発にもチャレンジしていく必要があると考えます。

 次回は、上記(3)の本人の市場価値を意識させたアドバイスに関して説明し

ていきます。


 第5回:「求心力」から「遠心力」を活用したマネジメントへの転換

 トリムタブの岸守です。前回、「ヒト・モノ・カネを管理する」といった管

理型マネジメントから下記のような「キャリア開発(自律)型マネジメント」

への転換の必要性について話してきました。

(1)定期的な面談の中で、部下一人ひとりのキャリアアンカーを明確にしてキ

ャリア自律を促す。

(2)個々の業務発注時には、それぞれのキャリアアンカーにあわせて、仕事の

意味や価値・成長ポイントを理解させる。

(3)部下が仕事や今後のキャリア(転職など)で悩んでいる時には、会社の事

情を押し付けるのではなく、本人の「市場価値」を意識させたアドバイスを行う。

 今回は上記(3)の「市場価値」を意識させたアドバイスについて詳しく触れ

ていきます。

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会社経営やマネジメントにおける「求心力」と「遠心力」の違い

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 現在の管理型マネジメントが確立した高度経済成長期における終身雇用制が

前提とした時代の会社と労働者の関係は、会社側が個々の労働者が満足のいく

待遇・環境・報酬を用意することで強い「求心力」を生み出し、労働者の会社

に対するロイヤリティ・忠誠心を期待することができました。しかしバブル崩

壊以降の低成長期になって、多くの中小企業では右肩上がりの業績は期待でき

ず、内部留保を切り崩しながらの待遇・環境・報酬の改善には限界があり、年

々「求心力」は低下しています。そんな中で、労働者にのみ以前と同様のロイ

ヤリティ・忠誠心を期待するのは無理が生じていると考えられます。

 そこで生まれてきた「キャリア開発(自律)型マネジメント」では、年々低

下する会社側の「求心力」を「遠心力」によって補っていくやり方とも言えま

す。「遠心力」とは、個々の労働者に自分自身の「社外から見た市場価値」を

意識させ、日常業務を通して自分自身の「市場価値」を高める成長実感を提供

する方法です。つまり、従来の「会社のために頑張れば、社内で高い報酬や昇

格が期待できる」という関係から、「今の仕事を頑張れば、自分自身が社外で

通用する成長を期待できる」という新しい信頼関係・エンゲージメントを構築

することが重要だと考えます。この考え方を前回ご紹介した慶応義塾大学の花

田光世先生などは「内的キャリアの充実」と呼び、田坂広志先生などは「目に

見えない報酬」と呼んでいます。ご興味があれば著書をご一読されてみるとよ

いと思います。

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「遠心力」を活用したマネジメントの具体例

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 人は誰でも労働環境に不満を持ったり、将来のキャリアに関する不安から、

「このまま今の職場で働いていてよいのか?」と悩むことがあります。コンサ

ル先の労働者からそんな悩みを相談された際に、悩みを封じ込めて今の業務に

集中させることが困難だと判断した場合には、事前に経営者の許可を取ったう

えで、在職中での転職活動を推奨するケースがあります。私はキャリアコンサ

ルタントとして就業支援施設などで求職者支援も行っているので、それこそ全

力で相談者のために会社選びから履歴書添削や面接対策まで支援します。

 すると半数以上のケースで「思ったほどの待遇で転職することができない」

「自分が今の会社で感じている不満は、転職先でも解消できない」などといっ

た理由から、転職活動をあきらめたり、内定をもらっても辞退したり、転職し

た後も「前の会社に戻りたい」と言ってきたりします。このように転職活動を

通じて、自分自身の「市場価値」や「他の会社と比較した相場観」を理解させ

たうえで、今の仕事を通して自分自身の市場価値を上げるためには、どのよう

に取り組んだらよいのかという点に関して具体的なアドバイスを行うと、人は

大きく成長します。

 社内に閉じ込めていても、本当の意味での「自分自身の市場価値」や「自社

の魅力や課題」は見えてきません。上記のような転職活動の推奨は極端な例で

すが、社外研修やインターンシップの受け入れなどを通じて、部下に積極的に

社外ネットワークを構築させ、客観的な視点からの自社の魅力や課題をフィー

ドバックさせる。そしてそのフィードバック内容をもとに、共に自社の魅力発

信や課題解決のための業務改善を行っていくことが、個々の労働者を成長させ

ると同時に会社との新しい信頼関係・エンゲージの強化につながり、労働条件

を改善しなくても、定着率の改善につながると私は考えます。

 以上全5回にわたって、「採用と定着(職場活性化)を連動した中小企業独自

の新しい人材育成術」について解説してきました。長い間お付き合いいただき

ありがとうございました。

 最終回である次回は、付録編として、この新しいマネジメント手法を活用し

て、現在多くの中小企業で課題となっている労働生産性の向上に関する解決策

についてご紹介できればと思います。


 第6回:1分を刻むボトムアップ型生産性向上術

 トリムタブの岸守です。ここまで、採用と定着(職場活性化)を連動した中

小企業独自の新しい人材育成術として、現在多くのマネジメント研修で行われ

る「管理型マネジメント手法」から、バブル崩壊以降の低成長時代や終身雇用

の崩壊・若者の価値観の多様化などに対応した新しいマネジメント手法である

「キャリア自律型(開発型)マネジメント」を導入することで、労働条件を

変えなくても社員の定着率を上げることを可能にし、結果的に応募者の確保・

採用成功に導く方法について解説してきました。

 最終回である今回は、この「キャリア自律型(開発型)マネジメント」の導

入によって、最近採用と合わせて中小企業の経営にとって重要な課題である

「労働生産性の向上と労働時間の削減」を実現した事例について、ご紹介した

いと思います。

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「1日10分」の業務を削減するアイデアを社員から募集する

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 「労働生産性の向上」は多くの日本企業にとって喫緊の課題であり、IoT

やDXの導入など様々な手法が紹介されていますが、中小企業にとってはなか

なか投資コストの確保が難しく二の足を踏んだり、勇気をもって導入を決断し

ても運用・浸透が伴わないため、結果的に投資に見合った成果が得られなかっ

たという話もよく聞きます。また、国際的にも評価の高いトヨタの「カンバン

方式」などの生産管理方式も、中小企業には敷居が高く、従業員に徹底するこ

とは難しいという声も耳にします。

 確かに、トヨタの「カンバン方式」に代表されるような改善手法の結果だけ

を中小企業に水平展開しても、資本力や従業員の質の差などが原因で、運用・

浸透が伴わないケースが多いと個人的にも感じます。しかし、改善結果ではな

く、改善プロセスを全社員に運用・浸透させるならば、トヨタグループ37万人

の社員に徹底させるよりも社長の大号令の下従業員数十人に徹底させることの

ほうがずっと容易だと考えます。

 例えば、トヨタの有名な標語に「秒を刻む」という言葉があります。これは

「社員一人ひとりが目の前の業務の中から、道具の配置やちょっとしたやり方

の工夫などで1秒を刻む提案を簡単な文章でまとめる。直属の上司は、その提案

内容を他の社員に展開することで全社的にどれだけのコストダウンになるかと

いう視野で正当に評価する」という改善手法です。中小企業の場合、さすがに

「1秒を刻む」というのは困難かもしれませんが、「1日10分の業務短縮を行う

アイデア」ならば、通常業務の中でたくさんあると思います。しかし、たった

10分の短縮が下記の計算式のように、年間で40時間の時間短縮につながり、1日

の所定労働時間を8時間と考えれば、5日間の有給取得につながるアイデアにな

るわけです。

 1日10分短縮×5日間=週50分の短縮

 1週間50分の短縮×4週間=1か月200分の短縮

 1か月200分の短縮×12か月=年間2400分(40時間)の短縮

 「労働生産性向上」というと、どうしても会社全体の制度や仕組みの改善と

いう大規模なものを想定してしまいますが、従業員一人ひとりがコスト意識を

持ち、通常業務の中から1日10分時間短縮するだけで、年間で換算すれば大きな

成果となるわけです。この考え方を従業員に浸透させるのは、トヨタグループ

37万人に徹底させるよりも中小企業のほうが容易だと考えます。

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「1円活動」という社内提案制度の導入のススメ

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 前述の考え方を社員に浸透させるために考えた制度が「1円活動」です。これ

はよくある社内提案制度なのですが、下記の点が特徴的です。

・提案のテーマは「労働生産性の向上(労働時間の短縮)」に限定する

・提案内容はシンプルなA4の指定フォーマット1枚のみ

・提案には「改善前後の時間」、「該当する社員の人数と時給単価」「導入に

必要なコスト」を明記し、導入時に削減される年間コストを提案者が自分で試

算するフォーマット

・報奨金は、提案者自身が試算した削減される年間コスト金額

・会社は提案内容に優劣をつけるのではなく、「承認or却下」のみ

・却下の場合にはその理由を提案者に明確にして、再提案を促す

・承認された提案は、提案者が関係部署と協力して責任をもって全社浸透を行

い、結果の成否にかかわらず文書で報告する(失敗したとしても報奨金の返金なし)

 この制度を導入することで、新入社員から役職者まで自分の業務を見直して、

A4紙1枚にまとめるだけで、簡単に報奨金を得ることができるので、全社員に

対してコスト意識を浸透させることが可能になります。さらに承認された人は、

提案から運用・浸透までを責任をもって行うことで、労働生産性を向上させた

職務実績として転職の際に職務経歴書などにも記載できるので、自分自身の

「市場価値」が目に見えて上がるという効果もあります。ご興味があれば、導

入を検討してみてくださいませ。

 以上で、全6回にわたる新しい採用・育成に関する考え方をまとめさせていた

だきました。長期間にわたりお読みいただき、厚く御礼申し上げます。

 今回ご紹介させていただいた考え方は、千葉県産業振興センター様のご協力

をいただきながら、今までの研修プログラムの開発や個別コンサルティングの

経験をもとに、私自身も初めて整理をして文書化したものなので、まだまだ世

の中に浸透しているものではありません。したがって、読者の方々にとってど

こまで参考になったかは正直不安ではありますが、これからも下記の「千葉県

採用力サポートプロジェクト」を通して、採用担当者や現場リーダークラス・

若手社員向け研修などを開発し、少しでも中小企業の皆様にとってご負担のな

い形で実現可能な仕組みを提案していきたいと思いますので、ご興味ある方は

ぜひ下記のHPからプロジェクトに参加して、忌憚のないご意見を頂戴できれ

ばと思います。

 重ね重ね長期間にわたりお読みいただき、ありがとうございました。

株式会社トリムタブ 岸守 明彦 

(千葉県採用力向上サポートプロジェクト 企画&講師)

https://chiba-saiyoryoku.jp

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