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「千葉県産業情報ヘッドライン」バックナンバー
【連載特集】

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   中小企業のための経営戦略策定の視点
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第1回 経営戦略策定ステップと「ビジョン」の重要性

 経営戦略とは?あらためてその言葉の意味を考えてみますと、様々な要素が
思い浮かび一言で表現しづらいと思われる方も多いのではないでしょうか。企
業にとって経営戦略の策定は、ビジネスモデルを明確にし、仕組みをつくる必
要不可欠の取り組みです。企業における経営戦略の必要性、戦略策定のステッ
プと「ビジョン」の重要性について確認していきたいと思います。

■経営戦略とは?
「経営戦略」とは何か。一例として、ここでは『「経営戦略」とは、経営に対
する信念、価値観である「経営理念」に基づき、将来的な到達点である「ビジ
ョン」を実現するための道筋・手段であると』と考えてみたいと思います。
「ビジョン」をもう少し言い換えますと「経営理念」を時間軸で切って表した
ものであり、例えば、市場におけるブランド価値の浸透度などの定性的な視点
や、売上や利益といった数値で示す定量的な目標ということができます。
また、「戦略」と「戦術」といった言葉を使って補足しますと「戦略」とは、
ご自身の会社や周辺環境の現状を起点とし、会社の「経営理念」を背景とした
「ビジョン」とのギャップを埋めるための大局的かつ中長期的な方向性です。
「戦術」とは「戦略」を踏まえた局所的かつ短期的な施策と言えます。
しかしながら「経営戦略」について言葉の定義があるわけでなく、上述が正解
というわけではありません。言葉の定義づけにはあまりこだわらなくても良い
と思いますが、肝心なことは、「経営理念」、「ビジョン」、「戦略」に一貫
性があることといえます。

■経営戦略策定ステップと「ビジョン」の重要性!
 経営戦略の策定ステップにおいて、先ずは「経営理念」と「ビジョン」を定
めることが必要です。当然のことながら目標のないところに道筋や手段は見出
せないからです。そして全社的な視点から個別機能の視点へ、長期から短期へ
と戦略を策定していくわけですが、その際に様々なフレームワークの活用が有
効になります(これについては次回第2回で紹介させていただきたいと思いま
す)。
ここで確認しておきたい点は、経営者が当初の計画として策定された戦略と実
現される戦略とが同一のものになるのかということです。企業を取り巻く経営
環境の変化激しい昨今、これが同一のものになるかどうかは、容易に想像がつ
くところかと思います。いかに精度の高い戦略であっても、実際には、現場に
おける創発的な戦略策定と実行が必要となります。その時に改めて「ビジョン」
といった目標が組織の中で共有されているか否かが問われることになります。
「ビジョン」の設定は戦略の枕詞ではなく、組織内での共有化の必要性を認識
することが、先ずは戦略を策定するための第一のステップであるといえるでし
ょう。

第2回 戦略立案ツールの活用

 経営戦略の策定においては、既存のツールを活用することにより、事象の整
理を、モレやダブりを抑え、可視化しながら効果的に進めることができます。
戦略立案における環境分析→事業領域(ドメイン)の設定→戦略策定といった
流れにおいて、ここでは環境分析のフェーズで活用できるツールについて確認
していきたいと思います。
 環境分析とは、将来ビジョンに向けた現状を自社の外部や内部の視点で行う
分析です。一例として、外部と内部の両視点を統合して分析するSWOT分析
の活用についてみていきたいと思います。

■SWOT分析の活用
SWOT分析は、経営に影響を与える諸要素を外部環境として機会(Oppo
rtunity)と脅威(Threat)に、内部環境として強み(Stre
ngth)と弱み(Weakness)に、4つのマトリクスで分類、整理し
ます。自社にとってのビジネスチャンスの発見とそれに取り組んだ場合、どの
ような経営資源上の有利性、不利性があるのかといったことを踏まえ、方向性
を検討するツールです。このツールを活用する際の留意点としては、自社の置
かれている経営環境を大まかに把握するためのフレームワークであることを認
識して着手することです。
 また、各要素を抽出する際は、第一に制約条件と考えられる外部環境でも、
チャンスと捉えるポジティブな思考で取り組むこと、第二に将来視点で思考す
ること、言い換えますと抽出した外部環境の事象が「どうなっていくのか」、
内部環境の要素を「どうしていくべきか」を思考することが大切です。この分
析を有効なものにするためには、現状の確認に終始してしまうような事象の列
挙に留まらず、現状に対してもう一歩踏み込んで思考することが必要といえま
す。また、社内などのグループディスカッションでSWOT分析を活用する場
合も、これらを踏まえた上であくまでも大局を見極めていく姿勢で行うことが
大切です。諸要素の内容については、単語の列挙ではなく、きっちりと文章で
記載し、だれが見ても意味が分かるようにしておく必要があります。実際に社
内でこのツールを用いてディスカッションする場合は、顧客、競合を仮想でも
設定した上で分析すると、将来に向けての方向性が導きやすくなります。方向
性の意見を出し合う際は、戦略と戦術のレベル感にとらわれ過ぎないことも大
切です。なるべくブレーンストーミング的に意見を出し合い、後からレベル感
を整えるのもひとつの方法です。一回のディスカッションでまとめるのではな
く、何度も繰り返し方向性を練られてみてください。

 今回は、環境分析のフェーズにおけるSWOT分析の活用について述べさせ
ていただきましたが、このフェーズだけもPEST分析、ファイブフォース分
析、バリューチェーン分析、VRIO分析、3C分析などの様々なツールがあ
ります。いずれにしましてもこれらのフレームワークに綺麗に分類、整理する
ことが目的ではなく、将来ビジョンの達成に向けた有益な分析にしていくこと
が重要です。

第3回 経営戦略の実践的活用
  
 経営戦略の実践にあたり、その方針となるのが、ビジョンの設定と現状把握
から策定された戦略そのものです。また策定された戦略をどのように実行に移
すか、いかに効率的に処理するかがポイントになってきます。しかしながら経
営環境の変化の著しい動きに対応し、実行段階では戦略を軌道修正しながら進
めていくことが想定されます。策定された戦略を柔軟に使いこなすには、トッ
プダウン的な指示系統だけでは十分でなく、現場での能動的な戦略策定の創出
と実行が欠かせない状況といえます。

■実践における創発的戦略の必要性
 策定された経営戦略が、そのまま実現されることは難しく、実際は当初は全
く予定していなかった戦略を実行していることも多いといえます。改めて考え
てみましても昨今では、お客様のニーズそのものが不明確であり、唯一無二の
戦略を策定することは困難です。現場の状況に応じた戦略をつくりだす、いわ
ゆる創発的な戦略策定が求められます。当然のことながら、場当たり的な対応
といった意味ではありません。しっかりと策定された戦略があるからこそ、新
たな対応が可能であり、そのバランスが重要といえます。
 それではこのような現場の状況に応じた創発的な戦略を生み出すには、何が
必要なのでしょうか。ひとつは、目標であるビジョンが全社的に共有化されて
いること、もうひとつは組織構造がシンプルであることといえます。
 目標であるビジョンが全社的に共有化されていることとは、中、長期的方向
性がイメージされている状況と考えられます。このことは、現場の裁量ウエイ
トを高めることによる思わぬ弊害(それぞれがバラバラな方向に進んでしまう
など)を防ぐことができます。また、組織構造がシンプルであることは、会社
内で情報や知識の偏在を回避することが可能です。
 また、既存の戦略と創発的戦略のバランスは、会社の事業展開フェーズによ
っても異なってきます。例えばものづくりの会社を考えた場合、これまでとは
まったく異なった製品・サービスの開発時期、これに改良を加え品質アップや
コスト低減を図る時期とでは、既存の戦略と創発的戦略の採用ウエイトも変わ
ってくると思われます。当然、創発的戦略の活かし処は前者のフェーズとなる
のではないでしょうか。
 いずれにしましても既存の戦略、創発的戦略のどちらか一方に固執すること
なく策定、実行することやそれを可能とする仕組みの構築が有効であり、実現
すれば会社にとって大きな競争力になりうると考えられます。
 
 これまで3回にわたり、「中小企業のための経営戦略策定の視点」をテーマに
お話させていただきました。今後の経営戦略の策定において、皆様方の企業の
お役に立つことを期待し、今回のテーマ終了させていただきます。
                     
                                           中小企業診断士 増野雅之

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