「千葉県産業情報ヘッドライン」バックナンバー
【連載特集】
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高年齢者雇用安定法改正に対して取るべき中小企業の対策
〜社会保険労務士としてのご提案〜
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戦後大企業を中心に55歳定年が普及し、その後年金の支給開始年齢が55歳
から60歳に引き上げられるのを受け、定年60歳を義務としたのは1998年
でした。
今回の改正は、年金支給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられるのを受け、
希望者全員を65歳まで雇用することが義務化されます。施行日が来年4月に迫って
いるため、就業規則等の変更の対策が必要です。
このご提案が中小企業にとって中高年齢者の有効活用対策の一助になれば幸いです。
第1回 高年齢者雇用安定法改正の概要
「2011年就労条件総合調査」によると、82.2%が60歳定年制を、
93.2%が継続雇用制度を(再雇用含む)を採用している。
今回の改正の影響を受ける(労使協定で定めた基準該当者のみを継続雇用制度の
対象としている)企業は56.8%であり、過去1年間の定年到達者43万5千人
については、継続雇用者が73.6%、継続雇用を希望しない者が24.6%、
基準非該当者(企業が雇用できないと判断した者)が1.8%となっており、基準
非該当者を雇用しなければならない影響よりも年金支給開始が遅れることによって、
従来は希望しなかった者が希望することの影響の方が大きい。
【改正前】
・定年を定める場合には60歳を下回ることができない(法8条)
・65歳未満の定年を定めている事業主に対して、65歳までの雇用を確保する
ため、次のいずれかの措置を講じる義務(第9条)
1.定年の引上げ
2.継続雇用制度の導入(労使協定により基準を定めた場合は、希望者全員を対象
としないことも可)
3.定年の定めの廃止
【改正部分】平成25年4月1日施行
1.継続雇用制度の対象者を限定できなくなる
継続雇用制度を導入する場合、施行後は労使協定により対象者の基準を定め、
希望があっても再雇用しない基準を定めることができなくなり、希望者全員を再雇用
する必要が出てくる。
ただし、企業の負担が重くなりすぎないよう、勤務態度や心身の健康状態が著しく
悪い希望者は対象から外せるよう、指針を定めることになった。
2.経過措置
継続雇用制度の対象者を限定する基準を設けている場合は、老齢厚生年金の支給開始
年齢の引上げに連動する形で、今までの基準を利用できる経過措置を設ける。
<経過措置の適用年齢>
H25.4.1〜H28.3.31【61歳まで】
→H28.4.1〜H31.3.31【62歳まで】
→H31.4.1〜H34.3.31【63歳まで】
→H34.4.1〜H37.3.31【64歳まで】
→H37.4.1〜 【65歳まで】
3.継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大
グループ企業まで拡大する。
4.義務違反の企業名の公表
高年齢者雇用確保措置義務に関する勧告に従わない企業名は公表される。
5.指針の策定
実施及び運用に関する指針を策定し、65歳以上まで雇用機会を増大する。
以上が今回の改正の概要です。運用等の詳細については指針が出てから分かりますが、
今回の改正での注意点は、
(1)「定年を65歳」にすることを義務づけているわけではないこと
(2)継続雇用の労働条件については、その希望者にふさわしい職務、勤務時間、賃金を
会社が提示し、希望者がその労働条件に納得した場合に継続雇用を締結すれば良い
のであって、必ずしも労働者の希望に合致したものを求めるものではないこと。
ただし、希望者の保有する技術・技能を無視し、恣意的に低い賃金を提示したり、
転勤を命じたりすることはいけません。
第2回 高年齢者は人件費大幅カットで働いていただきましょう
第2回は実際に高年齢者に何時間働かせたらよいのでしょうか?という実務的な
ご提案をいたします。60歳定年後の働き方は、1週間の所定労働時間によって
おおよそ次の3パターンに分けられます。
例1) 1週30H〜40H[厚生年金・健康保険・雇用保険・労災保険加入]
… 退職前と同様の労働時間
例2) 1週20H〜29H[雇用保険・労災保険加入]
… 1日の労働時間は変えずに出勤日数を減らす又は出勤日数は変えずに
1日の労働時間を少なくする
例3) 1週19H以下[労災保険のみ加入]
【例1について】
1週30H〜40H、退職前と同様の労働時間で働いてもらうのは、会社にとって
必要な人材、資格や能力が秀でている高年齢者の働き方パターンです。
中小企業では人材が不足しているため、「その人の資格がないと受注できない」
「その人がいるから会社が成り立っている」等、大企業よりも定年に係りなく元気な
限り働いているケースが多いように思います。
会社にとって必要な人材だから、定年になったからと言って急激に給与を下げる
ことができない…。そんな時は、高年齢雇用継続給付(雇用保険から給付)や年金給付
を利用して60歳時に受け取る給与をほぼ確保でき、その上人件費は大幅に下げる
ことが可能となる方法があります。(ケースごとに違いますので、社労士にご確認下さい)
〜 勤続25年課長職 60歳以降の年金額 月額69,800円の場合 〜
【定年前】 【定年後】
月 給 361,300円 209,990円
月の手取額 300,581円 260,983円
(内訳)
給与 177,015円
年金 52,483円
雇用継続給付 31,485円
年間賞与 250,000円 250,000円
__________________________________
年間総手取額 3,807,608円 3,336,705円
年間人件費 5,297,492円 3,183,032円
(法定福利費含む) (法定福利費含む)
例1では、年間211万円の人件費カットとなります。毎月では、給与は15万円減
ですが、本人の手取りは約4万円の減額に抑えられます。
【例2について】
1週20H〜29H、1日の労働時間は変えずに出勤日数を減らす又は出勤日数は
変えずに1日の労働時間を少なくする、この働き方が一番多いと思います。
現状では、社会保険に入る必要がない労働時間なので、人件費は更にカットできます。
働き方の例としては、1日8時間を週3日で週24時間、1日4時間を週5日で週20時間と
なります。従事する業務により使いやすい働き方を選択して下さい。社会保険は入らなくても
良いですが雇用保険には加入してなくてはいけないので、例1で紹介した高年齢継続給付も
受給することができます。
〜 例1と同じ年金額 1日8時間 週3日勤務 時給1,000円の場合 〜
【定年前】 【定年後】
月 給 361,300円 115,700円
月の手取額 300,581円 201,377円
(内訳)
給与 114,222円
年金 69,800円
雇用継続給付17,355円
年間賞与 250,000円 0円
___________________________________
年間総手取額 3,807,608円 2,416,524円
年間人件費 5,297,492円 1,419,636円
(法定福利費含む) (法定福利費含む)
例2では、年間392万円の人件費カットとなります。毎月では、給与は25万円減
ですが、本人の手取りは約11.5万円の減額に抑えられます。働く時間が少ないので、
少々の手取額の減少は納得ですね。
【例3について】
〜 例1と同じ年金額 時給1,000円 1週19時間勤務の場合 〜
【定年前】 【定年後】
月 給 361,300円 82,650円
月の手取額 300,581円 152,450円
(内訳)
給与 82,650円
年金 69,800円
年間賞与 250,000円 0円
__________________________________
年間総手取額 3,807,608円 1,829,400円
年間人件費 5,297,492円 991,800円
(+労災保険料)
例3では、年間430万円の人件費カットとなります。毎月では、給与は27万円減
ですが、本人の手取りは約16.5万円の減額に抑えられます。働く時間が更に少ない
ので雇用継続給付はもらえません。
第3回 人件費過多にならない戦略とは?
第3回は高年齢者を継続雇用することが会社の活力を失わないよう、継続的に
若者の採用ができる会社となるためにはどうしたら良いかご提案したいと思います。
会社には年齢も能力も経験もバラバラな人材が、会社のために働いています。
継続的な事業のためには従業員の年齢が偏らないということが大切です。
今回の改正により、高齢者を雇用し続けると若年者の雇用の機会が狭められる
という反対もあります。確かに、いつまでも高齢者が会社を支配していることは
良い経営と
言えないと思います。
実際に、強い会社は中間の年齢層(35歳〜45歳)がイキイキと働いています。
中間層がイキイキと働いている会社はフットワーク良く、アイデアと活力がみなぎって
います。そして、高齢者はその高い技術力と知恵により、後進に道を譲りながらも
若い人を見守る役目を負って尊敬される・・そんな会社が素敵ですね。
高年齢者法が改正になって急に60歳以降の継続雇用の希望者をほぼ全員定年前
と同様に雇用し続けたとしたらどんな問題があるでしょうか?
人件費過多となるのは目に見えています。景気の良い時は給与を上げたが、景気の
悪い現在でもそう簡単に給与は下げらません。
経営者は能力や貢献度が高い労働者に沢山支払いたいのに・・実際は年功序列の給与
となって、能力のある中間層に対して厚遇していない傾向があります。
適切な賃金制度や評価制度が運用されていれば問題がありませんが、中小企業には
なかなか難しいでしょう。
経営者側が常に利益を確保するため、会社の今後の方針(設備投資や新規事業)の他に
「人件費」をコントロールできる仕組みを持っていれば怖くありません。
では、どのような仕組があれば良いのでしょうか?
1. 役職定年制を設ける
役職定年は、60歳定年の場合、主任や係長は50歳で降格、課長や部長は55歳で
降格し後進にポストを譲り育てる。
2. 能力の高い労働者は役員又は執行役員に登用する
社内で能力を活用するため、執行役員や役員として登用する。ただし、60歳〜65歳
までに役員であっても役職定年とする。その後必要であれば顧問として働いてもらう。
3. 55歳〜60歳に給与の見直しをする
降格時に役職手当を減給する。更に就業規則(賃金規定)などの定めによって、基本給
などを30%まで減給する。(労働基準法・労働契約法違反とならないよう注意して
ください)
4. 60歳定年時に能力に応じ給与を決める
第2回「高年齢者は人件費大幅カットで働いていただきましょう」の例を参考
にして働きパターンを決定してください。
5. 退職金規程の中に早期退職優遇制度を入れる
実家の稼業を継ぐ、田舎に帰り両親の介護をしなくてはならない等、それぞれ
個人の都合により、早期退職を望む者がいる場合に優遇制度があれば退職しやすい。
例 )退職金規程の中に、
15年以上かつ本人の申請により会社が承認した場合、会社都合(定年)扱いとし、
退職金の加算を次の通り行う。
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│【年齢】│50│51│52│53│54│55│56│57│58│59│60歳│
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│【加算】│50│45│40│35│30│25│20│15│10│ 5│ ‐ %│
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要するに、人件費を経営者がコントロールするのです。
これらの仕組みを活用しながら、高齢者を有効活用して積極経営をして頂きたいと
思います。
第3回までご清覧いただき、ありがとうございました。
徳永社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士 徳永 康子