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千葉県産業情報ヘッドライン

「千葉県産業情報ヘッドライン」バックナンバー
【連載特集】


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              事例から学ぶ 〜BCPの重要性と策定ノウハウ〜 
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           第1回「リスク管理で「よくある認識違い」と対応の考え方」

 事業継続計画(BCP)など、組織として危機への対応計画を考えようとする際、
「リスクの認識違い」を起こすことがよくある。計画を立案しようとする時に、こ
の認識違いを起こしてしまうと議論が進まないだけでなく、組織への浸透もはかり
にくくなり、BCPの実効性に影響してしまう。よくあるリスクの認識違いの事例
を紹介し、どのような考え方を持てばよいかについて解説したい。

 よくある「リスクの認識違い」の代表例としては、「想定外のことが起きたらど
うするのか?」「人がいない中でどうやってBCPをつくれと言うのか?」といっ
た2つが挙げられる。最初の「想定外のことが起きたらどうするのか?」というこ
とについては、想定外に強い対策を打つべき、と考えていただきたい。では、どう
やって想定外に強い対策を打つことができるかということだが、想定を地震などの
具体的な災害事象の発生というリスクだけでなく、何らかの被災があった際にイン
フラや社会資源が一定期間停止して動かなくなるリスクも想定に入れることが重要
ポイントとなる。

 例えば、「電力会社の停電が48時間続く」といった事態の想定である。停電4
8時間というリスクは、地震の発生でも起こりうるが、水害やテロ、電力会社の設
備事故やいたずらなど、さまざまな要因で起こり得るリスクである。原因や要因に
関係なく、このインフラや社会資源が停止したら影響が大きいと考えられるリスク
の停止を前提条件にすることにより、想定外リスクが少なくなるという考え方であ
る。さらに、想定外リスクが少ない中で対策を講じておけば、想定していない事態
が発生した際に、その事態の収束に集中して対応することが可能となるため、結果
的に想定外リスクに強いBCPができることになる。

 次に「人がいない中でどうやってBCPをつくれと言うのか?」という考えに対
して、どう捉えればよいかを考えたい。多くの人は、人員が少ない事業所ではBC
Pの策定が難しいと考えがちだが、実際はその逆である。組織が大きい方がBCP
を従業員全員に周知するのは大変なことであるし、ある部門が動かなくなると連鎖
して別の部門も動かなくなるといった事態も起こりうる。組織が小さく、少人数で
事業を行うところでは、安否確認も素早く行うことができ、1人がいくつかの業務
を兼務していることが多いので1人の判断で対応できるというメリットが大きいも
のだ。おそらく、こうしたリスクの認識違いは、BCPを策定・運用することが面
倒だと思っていることの言い訳にしているだけではないかと考える。大規模災害時
のリスクを真正面から受け止めることができ、BCPの策定方法を理解することが
できれば、小規模事業者の方がBCPはうまく進めやすいはずなのだ。

このようなリスク認識の大きな間違いを起こさないようにして、事前の準備を十分
に行っていただきたい。次回以降は、どんな会社も簡単に策定できるキーポイント
を解説したいと思う。


                           第2回「その時、各従業員はどう動く?」

  前回は、事業継続計画を立てる上で起こりがちなリスクの認識違いについて解説
し、事業継続計画の際に陥りがちな点ご理解いただいたと思う。今回は、具体的な
策定を行う上で考えるべき従業員の行動について解説したい。

  事業継続計画を文書として完成させることは、それほど難しいことではない。ガ
 イドラインやフォーマットに沿って必要事項を埋めれば、計画そのものは容易に作
 成することができる。
  しかし、実効性の高い計画を立てようと思うと、かなり難しい。担当者が一人で
事業継続計画を考えて文書化しただけでは、災害発生時に各従業員が適切に行動で
 きるとは言えない。関係する従業員同士が、「大規模な災害が発生した時、私はど
 う動くのか?」と問いかけ、その問いに答えるプロセスを踏みながら、検討事項を
計画に落とし込まなければ計画の実効性は高まらない。

  このため、事業継続計画を立てるためのスタートラインは、一人ひとりの従業員
が「災害時、どう動くのか?」をシミュレーションすることなのである。

  前回お伝えしたように、大規模な災害の発生に伴って、「電力会社の停電が一定
 時間続くこと」は想定しておくべき基本事項である。他にも、「電話やメールが通
じない」「ガス・水道が停止する」「幹線道路が一般車両通行止めによって周辺道
 路が渋滞する」といった事態も想定に入れておく必要がある。これらの被災状況に
対して、各従業員が自分の役割を果たすために、指示がなくても自身で考え、何を
実施しなくてはならないのかを考えることが、事業継続計画の第一歩になるという
 ことだ。

  実際に被災して1時間以内は、各自がとるべき行動を「指示がなくても」とって
 もらう必要がある。指示待ちでは、事業継続は機能しない。停電など主要インフラ
 が停止し、通信が使えない状況で、何を確認し、何を報告しなければならないのか
 を各自が認識するためには、その状況を設定した上で考える機会をつくることが大
 切なのである。被災直後にとるべき行動をとらなかった場合に発生しうる二次被害
リスクや、対応が遅れたために数日後に燃料や材料在庫が枯渇してしまうケースは、
 平常時であれば容易に想像がつく。

  例えば、停電が起きた際に元電源を落としておかないために、通電火災が起きる
 といった事例は過去の災害から学び、対応できるようにしておく基本事項である。
 他にも、設備や機械などを復旧させるために、保守点検事業者に連絡をするなどが
遅れると、多くの会社から点検や修理の依頼が殺到するため、復旧が遅れるといっ
 た事態も考えておく必要がある。

  このように、「災害発生、その時どう動くか?」を自問自答し、災害時のリスク
 を平常時にシミュレーションしておくことは、書面に落とし込む前に必ず実施して
 おきたいことなのである。事業継続計画立案のステップの中では、特に最初の段階
で関係者を巻き込んだディスカッションを行っておきたいものである。


                           第3回「どこから手を付ければよいか?」

 前回の記事では、BCPを策定する上で考えるべき従業員の行動について解説さ
せていただいた。事業継続計画を立てるためには、まず一人ひとりの従業員が「災
害時、どう動くのか?」をシミュレーションすることの重要性を認識していただい
たと思う。今回は、「どこから手を付ければよいか」がテーマだ。

 事業の継続を果たすために最も重要なことは、「自社の事業停止に最も影響のあ
る経営資源を特定し、その対策を講じること」である。実例で考えてみたい。

 東日本大震災で長期間製造が止まったものの1つに自動車がある。何が自動車製
造ラインを長期間にわたって止めてしまったかと言うと、最も致命的であった資材
は、意外なことに「過酸化水素」という物質であった。自動車製造の工程で過酸化
水素を使うことは考えにくい。では、どのような関係があったか。

 過酸化水素は、半導体を製造する前工程として基板を洗浄する際に必要不可欠な
物質である。この過酸化水素の国内シェア70%以上を生産するラインが震災によっ
て長期間停止してしまったため、半導体の基板が製造できない事態が発生してしま
った。自動車にはいろいろなシステムが搭載されているため、半導体基板の製造が
止まることによって自動車内部のシステムをつくることができなくなってしまった。

 自動車の製造者が過酸化水素を管理することなど、通常はあり得ないため、製造
業であればサプライチェーン全体で事業停止に追い込まれる可能性のあるリスクを
分析しなければならないということだ。この視点が、自社の事業停止に最も影響の
ある経営資源を抽出することと言える。

 この抽出のことを「事業影響度分析」という。特注品や稀少な原材料、リードタ
イムの長い部品など、特殊技術、得意先からのスペック条件が厳しい製品やサービ
スなどが、分析するための重要な視点となる。想定したリスクに対して、どれくら
い調達に支障をきたすかなどを評価し、代替策を平常時から考えておく必要がある。

 この事業影響度分析をBCP策定のコアとして位置づけ、現場から具体的な情報
をあげてもらうようにすることに取り組んでいただきたい。この分析を行わずにB
CPを策定しようとすると、事業継続ではなく単なる防災対策になってしまう。も
し影響度分析なしにBCPを策定すれば、従業員が無事に避難を終え、安否確認を
行って、瓦礫の片づけなどを行った後に、「○○がないから事業の復旧が遅れる」
「○○の修理に2週間を要するから復旧は1か月後になってしまう」といった事態
に陥りやすくなり、対応が後手にまわってしまうということだ。BCP策定におい
て欠かせないプロセスと言える。


                          第4回「規模別・業種別・地域特性に合わせたBCP策定のポイント」

 これまで3回の連載では、BCPを策定する会社が初期段階でつまずきやすい点
について、どのように考えて取り組めばよいかを解説してきた。今回は、会社の特
性別にどの点を重視して策定するとよいかについて見ていきたい。規模や業種、地
域特性などによって、どのようなBCPを策定すべきかを解説する。

 会社の規模によってBCPで考えるべきポイントは大きく異なる。組織が大きい
企業では、各部署の役割や機能が特化しやすいため、他部署の初動が滞ると自部署
の復旧が遅れるといったことが発生しやすくなる。

 例えば、情報システム部門の対応が遅れると社内ネットワークなどに影響が出て
しまい、災害時の情報の共有に支障が出やすくなる。組織が小さく、多くの全社的
業務を総務担当者が掌握するような会社では、総務担当者の準備次第で会社の復旧
の早さが決まる。

 規模が大きい会社ほど、自部署の業務停止に影響を与えかねない部署との連携が
欠かせないため、BCPで準備すべき事項を組織横断的に検討する必要がある。ま
た、小規模事業者では間接部門ひとりが担うべき役割の範囲が広くなりがちなため、
事前に準備していることを訓練やシミュレーションなどで周知し、間接部門に問い
合わせなくても各自が動けるようにすることが必要だ。
 大企業では、組織が大きすぎてBCPを機能させるのが難しいという声が出やす
く、小規模の会社では、人がいなくてBCPどころではない、という声が多く出や
すいが、どちらも自組織の特性を理解して準備を行えばそれほど難しいことではな
い。

 例えば、製造業かサービス業かなど、業種別にBCPで考えるべきポイントは大
きく異なる。
 製造業では、何が停止すると製造に致命的な影響を与えるかを中心に考え、購買
部門がサプライチェーンの復旧シミュレーションを行い、インフラや設備などを復
旧するために必要な準備を行うことが中心となる。もちろん、自社が壊滅的となっ
た場合を想定して、どこかで代替生産を行うことができないかも検討要素となる。
 サービス業では、顧客の避難誘導やサービスの停止判断に加え、従業員一人ひと
りの行動によって事業の復旧度合いが影響を受けるため、徹底した訓練を行うこと
が重点事項となる。
 この他、拠点が一か所に集中している会社と点在している会社とでも、対応計画
や対応組織が変わってくるため、自社の特性に合わせたBCPを考える必要がある。

 自社周辺の地域特性も必ず確認しておきたい重点事項である。ただし注意したい
点は、自社地域ではどのような災害が起こりやすいか?と考えるのではないことだ。
どんな災害が起こりやすいかではなく、災害発生によって影響を受ける地域特性は
どのようなものかを考える。

 例えば、液状化しやすいか、幹線道路などで通行止めになるルートはどこか、最
大で起こりうる津波による影響がどれほどかなどである。
 この他にも、顧客からの要求特性、行政との関係、法令上の義務、雇用関係、原
材料の特性、応援協定の可否などによってもBCPで考える要素が異なる場合が多
い。自社がどのような事業特性を持っているのかを冷静に分析してBCPに反映さ
せていただきたい。


                          第5回「危機対応に強い組織づくり」

 昨年は、4月に発生した熊本地震だけでなく、東北、北海道地方に台風が直撃し、
鳥取でも大きな地震が発生するなど、各地で大規模な災害が続いて発生した。
 2011年の東日本大震災以降、各業界では大規模災害への備えを整えつつあるもの
の、必ずしも過去の教訓が活かされたとは言えない状況も見られた。
 災害が起きてから慌てて対応したため、どうしても後手にまわらざるを得なかっ
た企業があった一方で、準備を行っていたために早期に復旧を果たし、事業への影
響を最小限にすることができた企業もあった。

 この違いはどこにあるのか、今回は最終回としてこの点に着目したい。

 人はリスクがあると分かっていても目の前の業務に追われてしまうと重大なリス
クへの備えを後回しにしてしまうことがあるということだ。
 一方で、大規模地震への備えをしていたために熊本地震で早期に復旧し、得意先
から高い評価を受けた会社もある。復旧をスムーズに進められた会社では、平常時
からリスクに対して向き合うことができていたということであろう。

 今や、日本中のどこで事業を行っていても、大規模災害の発生は起こりうる事象
として認識する必要がある。例えば、東南海トラフを震源とする巨大地震や首都圏
直下型地震などは、今後30年の発生確率が70%以上と言われている。(平成2
5年文科省地震調査研究推進本部調べ)通常、人が交通事故に遭って死亡する確率
は30年で0.2%と言われている。

 こうした他のリスクの発生確率と比較すると、大規模地震がどれほどの発生しや
すいリスクであるかがわかりやすくなる。甚大なリスクの出現を想定できる状態に
ありながら、そのリスクへの対応のために準備する会社と「そのうちいつか準備で
きればいい」と考え、先送りする会社では、どちらが信頼に値する会社であろうか。

 リスクに強い会社は、リスクは常にありうるものと認識し、事業に多大な影響を
与えかねない事象を真正面から受け止め、計画的に取り組んでいると言える。
 事業を遂行する上で阻害要因となる可能性のある事象を洗い出し、優先順位を定
めて明確な事業課題を持ち、計画を立てて着々と改善、改革に取り組み、社内の諸
問題をあらかじめ解決する仕組みが整っていると想像できる。

 事業環境の変化を早期に捉える目を持ち、先を見据えた事業運営によって、日常
的なトラブルなどが生じにくく、好循環な経営を行うことができるということと言
える。
 逆に、一度出現すれば自社にとってダメージが大きい事態がわかっていながら、
対応を計画的に行えない会社は、いろいろな問題に対しても場当たり的で、都度対
応というマネジメントになりやすいため、安定した経営を行うことが難しいであろ
う。

 事業継続計画のことを考える機会に、自社のリスクへの対応力や計画力そのもの
に目を向ける機会をつくってもらいたい。

                  株式会社フォーサイツコンサルティング 代表取締役 浅野 睦   


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