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千葉県産業情報ヘッドライン

「千葉県産業情報ヘッドライン」バックナンバー
【連載特集】


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     経営者のための人事改革 〜業績を伸ばす人事政策とは〜
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   第1回「人事政策とは仕事の点検から 〜組織とは仕事と人の組み合わせ〜」

 日頃から組織・人事の制度作りに頭を悩ませているのではないかと思います。特に
評価制度・賃金制度については、作っても機能しないで困っている会社が多いようです。
 具体的に次のようなことです。

 ・評価項目が抽象的でわかりにくい
 ・どうすれば給料が上がるのかわからない
 ・評価後のフィードバックがない
 ・上司が部下の仕事ぶりを観察していない

 他にも色々あるでしょうが、要するに次のように制度の作り方が間違っているから
です。

 ・外部のコンサルタントに丸投げで作ってもらった
 ・社内のごく一部の人で作った
 ・本にあるものをそのまま使った
 ・作った本人もわからないような複雑なものを作った

 そこで次のように進めることが必要です。

(1) 制度作りの前に社長以下全部門の幹部が集まって次の基礎知識を共有化する。

 ・会社とは何か(計算構造・平面構造・立体構造・権力構造)
 ・社長と幹部・管理者の違いは何か(幹部・管理者とは社長の分身)
 ・仕事とは何か(単に生活の手段だけではない)
 ・人間とは何か(長所もあれば短所もある)

(2)会社にどんな仕事があるか総点検する

 会社は人の集まりといいますが、実はその前に仕事の集まりです。個々の仕事ごとに
作業手順や必要とされる能力(知識・技術など)があり、仕事を基準に次のことを行うの
が組織・人事の制度作りです。評価・賃金だけでなくトータルに考える必要があります。

 ・組織設計とは、仕事を種類別・階層別に分けて組織図を作ること
 ・人材採用とは、仕事に必要な能力を仕入れること
 ・人材配置とは、組織図に人を当てはめること、つまり役割分担
 ・人材教育とは、仕事に必要な能力を身に付けさせること
 ・人材評価とは、業績や能力を測ること
 ・賃金支払とは、業績や能力に報いること

 したがって、組織・人事の制度作りは仕事の点検から始まることになります。最小単位
に細分化された仕事のことを専門用語で課業といいますが、いちど課業分析をやってみる
と会社の実態や社員の実態など、いろいろと興味深い事実が浮かび上がってきます。付け
焼刃的に作っても一時しのぎにしかなりません。どっしり腰を据えて会社全体の体質改善
を目指して行う必要があります。評価・賃金制度だけ作っても業績を上げ続ける強い組織
にはならないことを肝に銘じてください。


      第2回「採用なくして将来なし 〜組織は新陳代謝が必要〜」

 「会社は人の集まりである前に仕事の集まりである」と前回書きました。ですから
人を採用するということは仕事能力を仕入れるということです。
 また、会社は植物・動物と同じように生き物です。生き物は常に新陳代謝をしない
と腐ってしまいます。落葉のあとに若葉が芽吹くように、採用と退職は組織の新陳代
謝でありこれをコンスタントに行なうことが会社を永続させる必須条件となります。
 営業活動が顧客獲得活動なら採用活動は人材獲得活動ですが、どちらも人を獲得す
るという点で共通しますので、採用担当者には営業感覚が求められます。
 まず安心感・信頼感を感じさせる人、腰が軽く行動力ある人、求職者の心理を読め
る人が適任です。

 さて、実際にどんな人を採用するかですが、現在・将来にわたって必要とされる仕
事ができるかどうかを見ることが基本になります。即戦力を中途採用する場合は実績
があるかどうかを知りたいのですが、前職調査や専門的なテストなどで判定します。
 新卒・若手の場合は即戦力とはいかないので将来性を見ますが、次のような項目ご
との判定法を使ってみるといいでしょう。

 ・リーダーシップ  リーダー経験あるか・ビジネスゲーム・グループ討論
 ・基礎学力 作文・常識テスト
 ・記憶力  学歴・テスト
 ・思考力  学歴・テスト
 ・協調性  クラブ活動経験あるか・話し方・聞き方
 ・責任感  やり遂げたという経験あるか・リーダー経験あるか
 ・向上心  目標あるか・成功体験あるか
 ・明朗性  笑顔
 ・几帳面  いす並べ・整理整頓
 ・俊敏性  いす並べ・整理整頓・食事スピード
 ・忍耐力  運動部経験あるか・トイレ掃除・苦労体験
 ・容姿   見ればわかる
 ・品性   私服で面接・話し方・会食


      第3回「教育には強制も必要 〜成長の源泉は人材力〜」

 新卒であろうと中途であろうと、採用したからには業績を挙げるために仕事をし
てもらわなければなりません。仕事ごとに要求される能力(知識・技能など)は違い
ますから、まずは担当する仕事に必要とされる能力を身に付けることになりますが、
どんな仕事・能力でも次のような要領で行うことをお勧めします。

 第1に量をこなす。質は量をこなさないと良くなりません。小人閑居にして不善
をなすといいますが、凡人は下手に暇があるとろくなことはしないという格言です。
 受験戦争の反動で始めたゆとり教育は学力を落としただけで失敗しました。過度
の詰め込みも問題ですが、多忙でいるほうが仕事は早く覚えます。
 
 第2に失敗を経験させる。多忙にしていれば失敗する確率は高くなります。わざ
と失敗する人はいませんが、成功よりも失敗から多くのことを学びます。
 早く失敗し、早く課題を見つけ、早く克服し、早く業績を挙げる。スピードが大
事です。特に仕事が順調に進んでうぬぼれているような人には、最初から失敗を経
験させるつもりで意識的に難しい仕事を与えてギャフンと言わせるのも一つの方法
です。
 
 第3に成功を経験させる。逆に失敗続きの人には小さな成功体験を演出して自信
を持たせることが必要です。新人営業マンには上司が同行訪問するのが常識ですが、
まず見本を見せて、やらせてみて、うまくいけばほめる、まさに山本五十六の言葉
通りのことを実行すればいいのです。
 
 第4に異分野を経験させる。特に、幹部候補生なら定期的な人事異動で多くの部署
を経験させて新しい仕事・能力を身に付けさせますが、同じ仕事を続けることによる
次の弊害を防ぐ効果もあります。

(1) 同じ仕事ばかりしているとマンネリになる
(2) 営業部門では顧客と親しくなりすぎて緊張感がなくなり癒着する
(3) 仕事に詳しくなるのは良いが不正のノウハウも見つけてしまう
 
 第5にやり始めに一点集中する。これから新しい仕事・能力を身に付けようとする
ときに、「明日からやろう、来週からやろう、来月からやろう」と言っているといつ
までたってもやりません。思い立ったが吉日で、やり始めにエンジン全開し、安定軌
道に乗るまでは他のことはやらずに一点集中する。他にやりたいことがあってもしば
らくが我慢するという忍耐力が必要です。
 
 第6に強制も必要。できるだけ本人の自主性に任せてうまく行けばいいのですが、そ
れでは埒があかないことが多いのも現実です。あまり綺麗ごとを言いすぎると先に進み
ません。
 トップセールスマンにクレーム係を経験させた会社があります。幹部候補生に敢えて
嫌がる仕事を経験させ、人の痛みがわかる人材に育てようとする社長の決断で、きわめ
て稀な事例です。このときは必要性を十分に説明して本人も納得しましたが、もし納得
しなくても社長にゆるぎない信念があるなら強制してでもやらせたほうがいいのです。


      第4回「評価とは教育である 〜賃金決定だけが目的ではない〜」

 する方もされる方も評価が好きだという人はいません。しかし、プラン・ドウ・シ
ーという仕事のサイクルの最後であるシーの局面で、好き嫌いに関わらず、けじめと
して行う必要があります。その際の心得として以下の点を挙げておきます。

 第1に、賃金決定や昇進・昇格だけが目的ではないこと。社員にとって最大の関心事
は賃金であり、次に昇進・昇格ですから、評価もそのためにやると思うのは無理から
ぬことですが、教育目的を忘れてはなりません。前回のテーマは教育でしたが、他人の
ことはわかるが自分のことはわからない。特に他人の短所はわかるが自分の短所はわか
らない。これが人間です。短所より長所を見つけて褒めることが必要ですが、短所も必
要に応じて指摘しなければならないこともあります。自分のことを良く知り、自分の能
力を向上させて最後は業績に貢献することが評価の目的です。

 第2に、仕事に関することを問うこと。プライベートとは区別するということです。例
えばアフター5に酒の誘いを断ったとします。飲ミニケーションは大いに結構だと思いま
すが、酒を飲めない人にとっては無理強いされると苦痛以外の何物でもありません。こ
のとき「あいつは付き合いが悪い」と言って協調性の項目に悪い点をつけることがいい
ことでしょうか。協調性とは同じ目標に向かって協力し合っているかどうかを問うもので、
一緒に酒を飲みに行くかどうかを問うものではありません。

 第3に、具体的事実を問うこと。フィーリングや先入観と区別するということです。営業
マンはお客様からフィーリングで決めつけられると思ったほうがいいのですが、上司は部
下の仕事ぶりをよく観察し、どんな仕事をどれだけやったのか、どんな能力を身に付けた
のかを見なければなりません。人間の能力や性格は時間をかけて一緒に仕事をしないとわ
からないものです。

 第4に、プロセスも問うこと。もちろん結果は大事なのですが、どんな優秀な人でも常に
素晴らしい結果を出せるわけではありません。同じように真面目に努力をしても結果が伴
わないことはあります。結果が出なくても長い目で見て結果が出るような行動をとってい
るかが大事です。成果主義と称するものの内容は会社によって色々あるでしょうが、下手
な導入の仕方をすると思わぬ副産物に悩まされます。

 第5に、根気よく観察すること。評価制度を作っても機能していない会社が少なくありま
せんが、上司が「自分も忙しいから部下のことを見れない」と言っているとどうにもなり
ません。これでは職務怠慢で役職を返上してもらわなくてはなりません。部下を持ったか
らには忙しいなりに見る。何とか時間を作ってコミニュケーションの機会を作ることが必
要です。


      第5回「賃金は最大の関心事 〜安心感と危機感が必要〜」

 社員はなぜ働くのか。仕事そのものの生きがい・やりがいもありますが、まずは生
活の安定が本音です。この本音を無視したら、まともな人事管理はできません。ただ
甘やかすわけにもいきませんから、次のことに気を付けてください。

 第一に、まず安心感を与える。独身のうちは自分一人の生活ですから気楽ですが、結
婚して子供も生まれ、健全な家庭を作ろうとすれば現実問題として年齢とともにおカネ
がかかります。安心感がなくて会社に忠誠を求めたり愛社精神を持てと言っても叶いま
せん。だから、能力は向上していて業績が極端に悪くないという前提で、月給は毎年少
しずつでも増やすことが必要です。年功主義より実力主義だとは言われますが、毎年増
やしたうえでの実力主義でないと社員は安心できません。世間並み以上のモデル賃金表
を提示して、ある程度先が見えるようにする必要があります。

 第二に、危機感も与える。心ある社長なら賃金を多く払いたいと思っていますが、肝
心のおカネがなかったら払いたくても払えません。つまり業績が悪いと賃金総額は増え
るどころか減ることもあります。だから、盆暮れの賞与は業績が悪いと無いこともある
のだと伝えて危機感も持ってもらう必要があります。そもそも賞与とは何か。もっとも
らしい説は色々ありますが、もともとは業績が良ければ褒美を与える、つまり賞を与え
る。個々人の業績は把握できなくても会社全体が良ければ与えるという性格のものです。
だから、社員は住宅ローンの返済で賞与払いはやめて月給の範囲で考えた方が無難です。
退職金も払えるとは限りません。中小企業では中小企業退職金共済制度を利用すればい
いのですが、大企業や官公庁のように高額ではありません。

 そもそも退職金とは何か。これももっともらしい説が色々ありますが、社員にとって
は退職後の生活資金、会社にとっては社員を定着させる武器だということです。どんな
根拠であろうと社員にとってはもらえばいいのですが、会社にとって定着させる意味が
あるのかは最近あやしくなってきました。高度成長時代は人材不足だったため都合がよ
かったのですが、低成長時代に入ると会社にとっては余剰人員を抱えて悩み、社員も定
年までいようとする意識が低下してきました。それでパナソニック(松下電器)は選択
制を導入しました。従来どおり定年時に一括してもらうか、月給に上乗せしてもらうか、
どちらかを社員に選択させるというものです。また別の企業では、賃金はその時々の業
績を反映させるベきものという考えで5年ごとに10か月分を払うことにしています。賞与
と退職金の中間のような性格ですが、払える時に払っておこうということで一つのやり
方だと思います。

 ともかくも、賞与も退職金も本当にないと優秀な人が入ってこなくなりますから、社
長は何が何でも業績を向上させると覚悟を決めなければなりません。




                          経営コンサルタント 古川英夫



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