公益財団法人千葉県産業振興センターのサイトへ
中小企業経営に役立つホットなメールマガジン!

千葉県産業情報ヘッドライン

「千葉県産業情報ヘッドライン」バックナンバー
【連載特集】


         ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
             ◆ 連   載 ◆
     ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

    ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
             中小企業での3Dプリンター活用事例と取り組み方 
    ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

                   第1回「3Dプリンターのご紹介」

 「3Dプリンター」なる装置が世に出てから、約40年。当初は高価で大企業のツー
ルでしたが、10万円を切るようなモデルも出始め、個人的な趣味で使うなど幅が広
がっています。本寄稿(全5回)は、下記のテーマで中小企業でも活用が進んでいる
実態などもお伝えしていきますので、活用のヒントになれば幸いです。

(1)3Dプリンターのご紹介
(2)3Dプリンター機種のご紹介
(3)中小企業での3Dプリンター活用成功事例
(4)3Dプリンターが気軽に使えるFablab施設とは?
(5)これからの3Dプリンターについて


 第1回 3Dプリンターのご紹介

 まず3Dプリンターの定義ですが、「デジタルデータから立体の造形物を直接作り
出す装置」となります。つまり、3Dデータを用意する必要があります。
 用意する方法としては、CADシステム(FUSION360、AUTOCAD、等)や医療現場で使
われる断層撮影装置(MRI、CRI、等)で作り出す方法があります。また実物からデ
ータを作る3Dスキャナを使った方法やすでに3Dデータとなっているファイルをサイ
ト(例えば、国土地理院やスミソニアン博物館等)からダウンロードし、用意する
こともできます。

 3Dプリンターは、コンピュータに取り込まれた3Dデータをミクロン単位の薄い断
層データに分解し、これに沿って樹脂や金属粉末などを少しずつ積層しながら立体
形状に仕上げてゆく「3D積層造形技術」が、一般的に使われています。 最近では、
食品素材を材料に食べ物を作れる3Dプリンターも登場しています。

用途には次のようなものがあります。

・製造業:CAD(コンピュータを使った設計)データを元に、試作品やモックアッ
プ、鋳物のための中子や砂型、少量生産の特注品など

・医療:コンピュータ断層撮影装置などの人体内部の立体形状データを元にした手術
前検討用臓器模型、患者個別の移植用人工骨格など

・建築業:提案、説明のための建築模型


では次にメリットを考えてみましょう。

(1)ほぼどんな形状でも制作できる
  切削工具が届かない、硬くて加工が難しいなど、複数のパーツを組み合わせて作
っていた立体を「一体造形」できる。

(2)究極の多品種・少量生産ができる
  金属粉を使用し、金型や砂型などを用いることなく製造できるため、試作(モッ
クアップ)や顧客向け限定生産品の「違う種類(例えば、10種類)の製品を1個ず
つ生産する」といった、「究極の多品種・少量生産」にも対応できる。

(3)異なる材料の組み合わせができる
  積層することから、1つの製品の中に違う材料を共存させることができるので、こ
れまでにない特性をもつ新しい材料やモノを生み出せる。

 では上記メリットを享受したい方が一歩踏み出したいときにどうすればよいか?
詳細は次回以降で、解説いたします。

 次回は「3Dプリンター機種の紹介」と題して、具体的に3Dプリンターの種類や製品
名などをご紹介いたします。お楽しみに。



                     第2回「3Dプリンター機種のご紹介」

 前回は「3Dプリンターのご紹介」として、概要やメリットについて、ご紹介いた
しました。今回は具体的な種類や機種の特徴をご紹介いたします。

 1980年代に登場した3Dプリンターですが、当時は周辺技術が揃わず、価格も数千
万円と高価で普及しませんでした。それが昨今、数十万円〜数万円に価格低下した
ことで、注目されるようになりました。 
 また、従来、素早く試作する(ラピッド・プロトタイピング)が主な用途でした
が、最近は精度も上がり材料の選択肢も増えたことで、素早く生産する(ラピッド
・マニュファクチャリング)へと用途を広げつつあります。

 数年前から企業での活用が本格化してきている3Dプリンターには、造形物をプリ
ントするための様々な方式が存在しています。代表的なプリンタータイプは、熱融
解造形、粉末焼結、インクジェット、光造形があります。それぞれの特徴をご紹介
いたします。

 (1)熱融解造形(FDM方式)
 近年低価格化が進んでいる「FDM方式」はABS樹脂やPLA樹脂を材料とした細長い
「フィラメント」と呼ばれる樹脂素材を溶かして積層し固化していく方法です。
 廉価なため、ホビー用途で多数使われています。断面データに基づいて、紐状に
巻かれた樹脂をヒーターで溶かし、溶けた樹脂をノズルから押し出しながら、断面
形状を形成。この工程を繰り返しながら断面を積層し、立体形状を作成します。
 また比較的小型な製品が多いのが特徴です。

 (2)粉末焼結
 レーザータイプと電子ビームタイプがあり、産業用途は多数あります。
 金属材料が一般的で、断面データに基づいて、レーザーや電子ビームを粉末素材
表面に照射すると、照射された部分のみが硬化し、断面形状が形成。この工程を繰
り返しながら断面を積層し、立体形状を作成します。石膏パウダーに水滴を噴射し
て固化する「石膏パウダー方式」もあります。

 (3)インクジェット
 紫外線硬化樹脂を使い、断面データに基づいて、インクジェットノズルで紫外線
硬化性樹脂を塗布し、すぐに紫外線を照射して硬化させ層を形成。この工程を繰り
返しながら断面を積層し、立体形状を作成します。フルカラーで滑らかな仕上がり
が期待できる「マテリアルジェッティング方式」などもあります。

 (4)光造形
 同じく紫外線硬化樹脂を使い、断面データに基づいて、レーザーを液状の光硬化
性樹脂の表面に照射すると、照射された部分のみが硬化し、断面形状が形成。この
工程を繰り返しながら断面を積層し、立体形状を作成します。

次回は「中小企業での3Dプリンター活用成功事例」と題して、具体的に3Dプリンタ
ーの活用事例をご紹介いたします。お楽しみに。



                     第3回「中小企業での3Dプリンター活用成功事例」

 前回は「3Dプリンター機種の紹介」として、機種タイプや材料について、ご紹介
いたしました。今回は具体的な中小企業での活用事例をご紹介いたします。

 3Dプリンターは、3Dソフトでモデリングした3Dデータや3Dスキャナーで取り込ん
だ3Dデータを加工して使うなど、自由な発想で手軽に造形物をプリントできるため、
事業での使用方法は様々です。身近な中小企業では、下記のような使い方をしてい
る方々がいます。


(1)試作品作成:量産を前提とした新製品の確認用など

<事例:千葉市 R社(試作・金型関係)>

 釣り具関係の会社で現在ルアー(疑似餌)商品の試作開発を3Dプリンターで行
っています。

 設計士のS氏の話によると、以前は設計後に試作品作成を依頼し、数日〜数週間
かかっていたが、現在は3Dプリンターを設置しているFablab施設を利用すると、翌
日には完成しているとのこと。コストも大幅ダウンしています。またワーム型のル
アーは、3Dプリンターで試作型(モールド)を作り、樹脂を流し込んで作ることも
始めています。

 苦労している点は、3Dプリンター用の設計テクニックが多少必要とのことで、無
償で使えるFUSION360を駆使しながら、モデリングされています。

 大手自動車メーカーなど、3Dプリンターで新車デザインや部品を試作するのは当
たり前になっていますが、中小企業でも当然の流れとなってきています。



(2)実用品作成:下記の用途など、多数

・造形(建築物や土地など)、顧客へのプレゼンなどに使用

・一品もの(スマホカバーなど)

・自社製品のディスプレイ用品(陳列用や撮影用の台)など

<事例:松戸市 模型工房ばーちゃるわーるど様 (造形関係)>
http://www.tokyovirtualworld.com/

 すでにテレビなどメディアで取り上げられていますが、東京オリンピックに参加
予定の206か国の方々にその国のシンボル(例えば、アメリカなら自由の女神、カン
ボジアならアンコールワット)をヒアリングし、「Yokoso Japan!!2020」と題して、
精巧なジオラマを製作されています。
 オリンピック開催中に選手村に無償で置き、各国の人々を歓迎することを目的に
活動中です。

 代表の亀田氏からお話を聞いたところ、3Dプリンターは当初精度が低く、かつ故
障やトラブル(ノズル詰まりなど)が多く、最初に購入した機種(2台)はあまり活
躍することなかったが、次の機種は組み立て型の3Dプリンターだったため、構造が
分かり、トラブルに対処することができるようになったとのこと。
 さらに今年購入した機種では、格段に精度がアップし、故障も少なくなったとの
ことです。(モデリングにはSketchUpを使用)

 こちらの事例からも、過去に使いにくく、壊れやすい3Dプリンターで挫折した方
々も、最新プリンターでもう一度是非トライしてみてください。印象が変わるかも
しれません。

 3Dデータはネットを介して自由にやり取りできます。
 例えば、地上で作られた設計データを使い国際宇宙ステーション(ISS)に設置さ
れた3Dプリンターで、 工具や補修部品が作られるようになりました。 また、臓器
作りの事例も増えてきました。富山大学では、細胞をプリントすることにより、心
臓そのものを作る取り組みがなされています。

 このように、あらゆる方向性で使われ、かつ「もの作りの民主化」が進み、「産
業」のあり方を根底から変えてしまうという意見も聞かれるようになりました。
 ロボット同様、3Dプリンターは、コンピュータと人をつなぐ新しいUI(ユーザー・
インターフェイス)として、今後中小企業でも活躍の機会が増えていくでしょう。      

 次回は「3Dプリンターが気軽に使えるFablab施設とは?」と題して、具体的に3D
プリンターを使ってみることができる施設をご紹介いたします。お楽しみに。



                     第4回「3Dプリンターが気軽に使えるFablab施設とは?」

 前回は「中小企業での3Dプリンター活用成功事例」として、活用事例について、
ご紹介いたしました。今回は3Dプリンターを使うことのできる県内施設をご紹介い
たします。

 前号までにご紹介した通り、安価になった3Dプリンターですが、試しもせずに数
十万円の出費を出すのは、できるだけ避けたいところです。3Dプリンターや3Dスキ
ャナーをレンタルできる施設を利用し、一度実際に触ってみることをお薦めします。

 このような施設では、来場者に3Dプリンターや3Dスキャナーの使用方法を指導し
たり、時間を区切って貸し出したりする他、セミナーやワークショップなどのイベ
ントを開催しています。

 試用をお薦めするのは、手軽になったとはいえ、使用方法やメンテナンスが難し
い事も理由に含まれます。

 実際、最初の工程である溶融するためのヘッドへの差し込み方やプリント前の予
熱の仕方など準備段階でもコツを覚えることは多く、ノズルの詰まりなどが発生し
たときのメンテナンス方法などは、いきなり素人がすぐできるものではないと思い
ます。3Dデータを作成するソフトの習熟にも時間がかかるので、熟練者に質問しな
がら、コツをつかんでいきましょう。

 それでは、県内の施設をご紹介いたします。


(1)31VENTURES KOIL

・概要:
 日本最大級のコワーキングスペースを持つ千葉県「柏の葉キャンパス」にあるイ
ンキュベーションオフィスで、コンセプトは「人と人、アイディアとアイディア、
活動と活動を結びつけるためのイノベーション創造拠点」です。
 第6回「アジア・アントレプレナーシップ・アワード2017」を2017年10月25日(水)
〜27日(金)を予定するなど、イノベーションを起こすベンチャー企業がダイナミ
ックに集う場を提供しています。

・3Dプリンター機種:MakerBot Replicator 5th Generation model
 ※料金は、1時間以内750円 /30分  ※1時間以降のご利用料金は半額となります。
 ※レーザーカッターなど、その他の機材も充実しています。
・URL: http://www.31ventures.jp/ventureoffice/koil/
・住所:千葉県柏市若柴178 番地4
  柏の葉キャンパス148 街区2 ショップ&オフィス棟6階
・営業時間:9時〜21時
・定休日:年末年始


(2)西千葉工作室

・概要:
 『「つくる」「なおす」「つくりかえる」で日常をもっと楽しく』をコンセプト
に近隣住民や学生が集う「まちの工作室」です。2017年11月3日(金)祝には、技術
力の低い人限定のロボコンである「ヘボコン」を予定するなど、誰でもものづくり
を楽しめる場を提供しています。

・3Dプリンター機種:MakerBot Replicator2x
 ※100円/10分で使えます
 ※レーザーカッターなど、その他の機材も充実しています
・URL: http://nishichibakosakushitsu.com/
・住所:千葉市稲毛区緑町2-16-3
・営業時間:10:00〜20:00 
・定休日:月曜日(月曜日が祝日の場合は翌火曜日)、毎月1日


(3)東葛テクノプラザ

・概要:
 県内企業等の技術力や研究開発能力の向上と新産業の創出、ベンチャー企業の育
成等を目的とした総合産業支援施設です。
・3Dプリンター機種:ストラタシス社FORTUS380mc
 ※料金や営業時間は、HPをご確認ください。
・URL: http://www.ttp.or.jp/equipment/item/79
・住所:柏市柏の葉5-4-6

 以上、3Dプリンターを使える3つの施設をご紹介いたしました。
 次回は「これからの3Dプリンターについて」と題して、今後の予測を含めて、ど
のように発展していくのかをご紹介いたします。お楽しみに。



                     第5回「これからの3Dプリンターについて」

 前回は「3Dプリンターが気軽に使えるFablab施設とは?」として、県内施設につ
いて、ご紹介いたしました。今回は今後の予測をご紹介いたします。

 家庭で写真を印字できるプリンターが普及したのは1990年代で、まだ日が浅いな
がら、現在では家庭に1台が当たり前になっています。このように、3Dプリンターも
近い未来、普及してくると考えられます。ただそのためには、下記の5点が必要だと
考えています。

(1)3Dデータを作成することが簡単になること、作成できる人が増えること
(2)いろいろな3Dデータ素材が無料で手に入り、好きに加工できること
(3)印刷中に問題が発生した時に解決しやすくなること
(4)フィラメントなど消費素材が安くなること
(5)3Dプリンター本体が安くなること(こちらはほぼ実現しつつある)

(1):構造的に複雑なものを簡単に立体化できるという3Dプリンターの「強み」
と矛盾しています。複雑な構造物を3Dデータ化するためには、ソフトを使いこなす
ことが必須です。すでにソフトは多機能になり、いろいろな表現を出来ますが、逆
に機能が多すぎて、習得には時間がかかります。
 普及のためには、デジタルネイティブな新世代への教育によるところが大きいで
しょう。最近子供向けプログラミング教室が流行していますが、3Dデータ作りの教
室を子供向けに開発できるのか?が課題です。

(2):博物館や国土地理院などから3Dデータを取得したり、個人レベルの作品を
素材として手に入れることが可能なサイトは増えています。ただ必要な3Dデータを
手に入れたいとなると探すのは一苦労です。また公的サイト以外では、無料データ
は一部で、ほとんどが有料となるケースも多いので、こちらの環境整備も必要です。

(3):メーカーの努力や使用者間のネットワークで自然と解決していくと思いま
す。まだまだですが、ここ3〜4年でもだいぶ進化してきました。部品交換のための
カートリッジ化もどんどん進むでしょう。

(4):多くの素材が開発されていますが、高付加価値=高価格路線が多い状況で
す。今後は使う人が増え、需要が増すと価格は下がっていくので、普及とともに下
がると期待しています。

(5):3Dプリンター機能のオープン化が進み、多くのメーカーが3Dプリンターを
発売しています。5万円を切るモデルも出てきていますので、家庭でも買えないこと
はないレベルになっていますが、個人的には現在の50万円くらいするモデルが1/10
程度になることを期待しています。

 以上、一般的な普及について意見を述べましたが、ビジネスの現場ではどうでし
ょうか?

 前回までに触れたように、当然、変革は続きます。複雑な構造ゆえ手作りしてい
るモノ、複数のパーツを組み合わせない一体成型モノ、大量生産前提の型作りでは
なく一品モノの型作り、遠隔地に届けているモノを現地で生産、など今までのモノ
作りを否定しなければならないことは多々あるでしょう。

 また「家」を3Dプリンターで制作する取り組みは海外で盛んに行われています。
例としては、サンフランシスコを拠点とする建築スタートアップ企業が、モスクワ
に家を建てた例が有名です。コスト約113万円、24時間で制作(俗にいう基礎部分)
したそうです。大きなものを一体成型するという発想はもっと広がるでしょう。

 さらに「調理」の分野も研究が進んでいます。スペインの会社がロンドンにオー
プンした専用レストランは、いろいろな形の調理(例えば、ピザ生地、パスタ生地
など)に3Dプリンターを使って、他店とは違った創作料理を出しているとのことで
す。

 第3回の記事で臓器制作の例も出しましたが、「あらゆる形あるものは、3Dプリン
ターで造ってみる」という発想にビジネスチャンスがありそうです。

「中小企業での3Dプリンター活用事例と取り組み方」と題し、5回に渡り、ご紹介し
てまいりました。お付き合いいただきありがとうございました。 
 

                         一般社団法人千葉IT経営センター 代表理事 野村 真実   


このページの先頭へ一覧ページへ登録・解除ページへ