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千葉県産業情報ヘッドライン

「千葉県産業情報ヘッドライン」バックナンバー
【連載特集】



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                         中小企業の働き方改革
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    第1回 中小企業では働き方改革の実行は難しいのではないか?

 松久晃士です。私は株式会社ワーク・ライフバランスでコンサルタントをしてい
ます。これまでに数多くの民間企業や行政・研究機関の働き方改革を支援してまい
りました。従業員数数万人規模の組織も、家族経営の10人未満の企業も私のお客様
です。このように「働き方改革」という言葉を様々なシーンで見かけるようになり
ました。
 皆さんは、ご自身にとって働き方改革とは何だと思われますか。何をイメージし
ますか。

 私はコンサルタントとしてこれまでに1万人以上のビジネスパーソンに働き方改革
に関するアドバイスを提供してきました。これまでの経験を踏まえると、多くの方々
が働き方改革について次のようなイメージを持っていらっしゃいます。

(1)システムを導入することによって、人の仕事を機械に代わってもらう
  (RPAの導入)
(2)人工知能(AI)を活用するなど仕事を効率的に進めることだ
(3)大企業ならできるのかもしれないが、中小企業にはできない(関係がない)話だ

 (1)、(2)は働き方改革を進めていくうえで検討する解決策に関するアイデア
です。そのため「まさに働き方改革とはこれである」とは言えません。情報通信技
術(ICT)の活用は欠かせませんが、それだけでは十分ではなく本質的な取り組みと
はなりません。(「じゃあ働き方改革とは何なのか」「何をすればいいのか」につ
いては第2回目以降でご紹介していきますね)

 (3)の「中小企業にはできない(関係がない)」というのはたいへん危険な誤
解です。実際に働き方改革に着手するハードルが高いのは大企業であり、中小企業
ほどハードルは低く、スピーディな改革が成し遂げられることがわかっています。
そればかりか多くの中小企業の事例が「中小企業こそ働き方改革に着手すると多く
のメリットを得られる」ということを教えてくれています。

 中小企業は迅速な意思決定が行いやすい、という観点については皆様がご存知の
通りでしょう。取締役だけで何十人もいるような大企業の会議室を想像するだけで、
自社の意思決定の速さを実感できると思います。

 一方で、働き方改革に着手したときのメリットにはどのようなものがあるでしょ
うか。大きな効果のひとつは「人材獲得競争に打ち勝つことができる」ということ
です。従業員が良質なチームワークを構築しながら仕事に集中でき、様々なライフ
イベントを経ても働き続けられるといった職場環境が用意されると、その環境に魅
力を感じる有能な人材が集まり、離職率が低下し、従業員満足度(ES)が改善され
ます。実際に、地方都市にある数十人規模の無名企業が働き方改革に着手し行政機
関から表彰されたところ、そのニュースが学生たちの間で共有され、あっという間
に人気企業になっていく。そんな事例が複数存在します。

 千葉県の有効求人倍率は平成21年度から上昇が続いています。雇用情勢が“改善”
されていると表現されますが、視点を変えると“求人を出しても人が採用できない
状態が加速している”と言えます。中小企業では経営者の高齢化に伴い、後継者育
成が大きな課題となっていますが、後継者となる人材を獲得することもたいへん重
要な課題となっています。

 働き方改革に着手することによって、人材獲得競争が優位となります。「中小企
業には働き方改革はできない、(関係がない)」とは決して言えません。

                       
    第2回 働き方改革とはいったい何か?

 前回は中小企業こそ働き方改革に着手すべきであり、人材獲得競争が優位になる
というのが大きな効果のひとつであるとご紹介しました。経営者と従業員の高齢化
が進み、人材獲得が困難になっている状況で、働き方改革を「中小企業には関係が
ない」としてしまうのはあまりにもったいないのです。

 では、「働き方改革」とはいったい何なのかを考えてみましょう。働き方につい
て1万人以上にアドバイスをするなかで、私がよくお聞きする考えは(働き方改革
とは)「仕事の効率を上げることだ」「業務の合理化・平準化を図ることだ」とい
うもの。それらは重要な要素ですが、働き方改革の全てを表しておらず誤解である
と言えます。

 働き方改革の第一歩は「自分たちの仕事はいったい何か」を見つめるところから
始まります。可能であれば2人で1組になって、「あなたの仕事は何ですか?」「そ
の仕事は社会にどのように役立っているのですか?」と質問をし合い、アイデアを
たくさん広げていってみてください。すると「私は”このため”に仕事をしている
のだ」という、使命が見えてくるはずです。この視点を「私」だけではなく「私た
ち」と部署やチームに広げて考えていきます。

 そのうえで、昨日、あるいは過去1週間から1カ月を振り返り「果たして私・私た
ちは”このため”に時間を使うことができているだろうか」と考えてみます。
 すると”このため”を強く意識すると、本当はもっと時間をかけたい・かけるべ
き仕事があったり、本当は時間を最小限にしなければならない仕事に時間を奪われ
てしまっている感覚があったり、という現状と理想的な姿のギャップが見つかって
きます。

 この、本当はこのように時間を使いたい・働きたいと思う「理想」と、そうはう
まく運んでいない「現実」のギャップを、チームや組織で埋めていこうとする議論
や行動が働き方改革なのです。

 つまり働き方改革とは(平易な言葉でまとめると)「もっといい仕事をするには
どうしたらいいだろうか」を考え続ける営みなのです。組織の仕事の成果(何のた
めに仕事をしているのか)を定義し、最小限の資源投入(人・モノ・金・時間)に
よって最大限の成果を得られないかと考えるのです。冒頭でご紹介した効率化、合
理化、平準化という発想は資源の投入量を最小限にするための手段であり、仕事の
成果を最大化するために何をすべきかという発想(分子の最大化)が抜け落ちてし
まっています。

 多くの人たちが「このため」を明確にしないまま日々仕事をしています。さらに
「このため」につながっているかどうかもあまり意識せず、時間を浪費しています。
例えるならば、ゴルフ場でどこにカップがあるのか確認もせず、ティーショットで
パターをぶんぶん振り回して汗をかいているような状態なのです。(ひょっとする
とまだボールも置いていない状態かもしれません…)

 では、”このため”を明確にして理想と現実のギャップが把握できる状態になっ
たあとには、具体的に職場では何をしたらいいのでしょうか。第3回ではすぐにで
きる働き方改革の実践方法についてご紹介します。


    第3回 働き方改革・職場で実行すべきこと

 前回までに働き方改革とは中小企業が競争力を高めるために着手すべき課題であ
ることを示し、その本質とは「もっといい仕事をするにはどうしたらいいだろうか」
を考え続ける営みであるとご紹介しました。

 どのような組織であっても、数名のチームが最小単位となって仕事を進めていま
す。大企業であっても中小企業であっても、3名〜8名くらいの単位のチームがあり
ます。それを「組織の最小単位」として捉え、この最小単位ごとに具体的な行動を
積み重ね、働き方改革を実行していくという手法を、今日はご紹介します。

 まず、「理想的な状態」をチームごとに考えます。つまり「私たちは働き方改革
を通じていったいどのようになりたいのか」という目標を定めるのです。これは経
営者や管理職が決めて伝達するようなものではありません。チーム全員でアイデア
を出し「私たちはこうなりたい」という理想を描く必要があるのです。
 もし「ちょっと考えにくい、アイデアが出にくそうだ」と思われるのであれば、
「どのような効果が得られるのであれば(どんな状態になれるのであれば)、働き
方改革に着手する価値があると思うか」という問いを立て、考えていくのもよいで
しょう。

 すると、理想とはかけ離れた現実の世界で私たちは仕事をしていることがわかり
ます。その理想と現実のギャップ、すなわち問題点を抽出し問題解決の議論をチー
ムごとに行っていきます。私はその議論のことを「カエル会議」と呼び、週に1回・
30分開催することを推奨しています。仕事の仕方を振り返る、やり方を変える、早
く帰る、人生を変える…という意味を込めています。

 普段、あなたも、あなたの同僚も「この仕事なんとかならないかな」と気づきが
あったり「もっとこうしたらいいのに」というアイデアも持っていたりします。
 しかし、それをチームで共有するような機会はなく、アイデアのままで終わって
しまい、具体的な行動・変化につながることはこれまでにありませんでした。「カ
エル会議」と呼ばれる機会を設けることで、このような気づきやアイデアをみんな
で出し合いながら、具体的な行動につなげていこうとするのです。

 カエル会議であまりアイデアや意見が出てこない雰囲気であれば、「アイデアを
否定しない」ことをルールとして設けたり、一人ずつ意見を聞くのではなく「付箋
にアイデアを書き、集める」という方法をとるとよいでしょう。お茶やお菓子を用
意して開催するのもよい方法です。

 ここで注意しなければならないのは、経営者や管理職が「解決策について口出し
をしてしまうこと」です。つい経営幹部が「こうしたらいいのでは?」とアイデア
を出してしまうと、カエル会議の主体は現場から経営側へと移行し、そのアイデア
を実行する現場は「やらされ感」ばかりが目立つようになります。
 経営幹部はぐっと我慢し、こらえる必要があり、このことが成功の秘訣でもあり
ます。経営者や管理職が動くべきときとは、そのチームだけでは解決できず、部門
をまたいだ連携が必要なときや、お客様や様々なお取引先の協力が必要なとき、業
界全体の慣習を大きく変えなければならないときなのです。

 今回ご紹介したカエル会議について、さらに詳しい進め方をマンガでわかりやす
く解説した本「マンガでやさしくわかる6時に帰るチーム術」がありますので、もし
よろしければ手に取ってみてください。
 
 次回は、こういったカエル会議を積み重ね、職場単位の働き方改革を積み重ねて
いくとどのような変化が現れるのか、事例を交えながらご紹介します。


       第4回 働き方改革に成功した企業が得られるメリット

 働き方改革を経営者の視点から見ると、自社の競争力をさらに高めるために着手す
べき経営課題であると言えます。従業員の一人ひとりが「もっといい仕事をするため
にはどうしたらいいのか」を考え続けることで、短時間で高い成果をあげられるよう
になります。多様な人材が活躍できる職場環境が出来上がると、さらに有能な人材が
集まり、好循環が生まれます。現在多くの経営者が直面している、人材不足の問題や
後継者不足の問題を解決に導くことができるのです。そのための具体的な行動・手段
として、職場ごとに開催するカエル会議がある、ということを前回までにご紹介しま
した。

 では、このような取り組みを積み重ねていくと、どのような効果をもたらすのかを
ご紹介しましょう。「様々な効果をもたらす」ということを数多くの事例が教えてく
れています。

 関西地方にある従業員40名ほどの特殊鋼を取り扱う企業では、働きやすい職場環境
を作ることに注力し経済産業省から表彰を受けるなど、ダイバーシティ推進企業とな
りました。その結果、毎年採用に応募する学生の数が、20名から2,000名に増え、有能
な人材の獲得に成功しています。

 慢性的な人手不足で採用だけではなく休暇取得も困難であった、三重県にある株式
会社エムワン(保険調剤、一般医薬品販売および在宅患者訪問サービスの提供)では、
カエル会議を重ねることでスキルアップを図り、誰が休んでもフォローできる体制を
構築。
取り組んだ店舗の有休取得率は約3倍となりました。働き方改革に取り組んでいること
を説明会等で積極的に伝え、採用のエントリー数は以前の5倍になったと言います。

 ある地方都市にある製造メーカーでは、製造現場(工場)に勤務する人たちが在宅勤
務をすることもできます。この会社では製造現場が繁忙を迎えたときのために、管理部
門(人事や経理といった仕事をしている人たち)も含めて、繁忙となっているラインの
仕事ができるよう「多能工化」を進めています。その方法を応用することで、製造現場
の従業員も管理部門の仕事にも対応できるようにし、そういった仕事をするときには在
宅勤務ができる、というのです。仕事の状況によって柔軟に人を配置することができる
という側面はもちろんのこと、多様な働き方、多様な仕事内容ができる環境は、従業員
の意欲向上にもつながっていることと思います。

 私たちの仕事は何か。その仕事は社会にどのように役に立っているのか。では「その
ため」に時間を使うことができているだろうか。仕事の達成目標を明確にし、そこに向
かう最短ルートを描こうとする発想が重要です。「知名度が低く人が集まらないのは仕
方がない」「スキルアップするには経験が欠かせない」「ラインはこの職人でなくては
まわらない」これらを「思い込み」であると考え、「…とは言えないかもしれない」と
する発想をぜひ持ってください。
先進的な事例はいま、日本中にあります。ぜひ業種・業界を越えた様々な事例に目を向
けて、前に進むことの勇気をもらい、先駆者たちの工夫を手に入れてください。

                   
      第5回「働き方改革に成功している企業が教えてくれるコツ」

 大きな社会的トレンドとなっている「働き方改革」をテーマに、第1回から情報と
事例を整理してお伝えしてまいりました。最終回である今回は、何年も前から働き方
改革に取り組んでいる先進企業事例から学ぶ、成功させるコツと取り組みの広がりを
ご紹介したいと思います。

 まず、成功している企業に共通している特長は「経営陣の理解が深く、現場の自主
的、主体的な取り組みを支援している」ことにあります。私のクライアントで何年も
のお付き合いのある製造業の社長は「従業員の人生を幸せな人生にしたい」と話して
くださいます。この会社で働くことができて幸せだ、この会社で働いているから家族
も幸せだ、そんな企業でありたい。そのために働き方改革に取り組むのだ、というの
です。この会社では社長のメッセージが現場に行き届き、現場では個々に多様な工夫
が重ねられ、経営陣も呼応する形で全社的な仕組みを変えています。

 次に「自社の取り組みだけで完結させることはない」という観点を先進企業の事例
は示しています。特にお客様との接点の多い仕事、仕事の発注者が明確に存在するよ
うな仕事においては「自分たちの取り組みだけではなんともできない」という発想の
もと、取り組みが進まないことがあります。

 しかし「であれば、お客様にも仕事の進め方を変えてもらおう」と考え、成功して
いる事例もあるのです。ある営業部にはお客様からの注文が手描きのファックスや電
話で届くといった状況がありました。営業担当はファックスを見ながら(電話を聞き
ながら)PCに打ち込みます。ファックスの読みづらい文字については確認の電話をし
ます。本来はお客様先の端末からウェブ上で発注できるのですが「機械が苦手」「発
注できたのか不安」との理由で、ファックスや電話での受発注の慣習が残ってしまっ
ていたのです。

 そこで彼らはお客様に端末を利用することのメリットを説明し、使い方がわからな
いお客様を対象にした勉強会を開催しました。端末による受発注に切り替えることに
成功し、注文を承るという作業を中心とした営業活動から脱却し、お客様に提案をし
ていく営業活動へと時間の使い方を変化させています。当然のことながらお客様から
も「端末の方が便利だった」等の好意的な反応が得られています。

 自部門だけの生産性向上が他部門には受け入れられないのと同様に、自社の都合だ
けで「相手に押し付ける」ような働き方改革は成功しません。自部署と他部署、自社
と他社が連携してもっといい仕事にするために知恵を出し合うことが重要です。

 「働き方改革」とは日常業務の中に取り入れるべき営みです。経営者だけではなく
従業員ひとりひとりも自身の仕事を見つめなおし、ときにお客様も一緒になって、
もっといい仕事をするにはどうしたらいいだろうかと考え、アイデアを出し合い、具
体的な行動によって働き方を変えていくのです。いま、この時期だけ、実施するもの
ではなく、何かシステムを導入することで完結させるものでもありません。私は、働
き方改革とは習慣化させるべき営みであると考えています。

 全5回を通じてお伝えしてまいりました、真の「働き方改革」をぜひ職場で実践して
ください。皆様の人生がよりすばらしいものへと変わっていくことに、このシリーズ
が少しでも役立つことができれば幸いです。


                  株式会社ワーク・ライフバランス 松久晃士
              

          


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