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千葉県産業情報ヘッドライン

「千葉県産業情報ヘッドライン」バックナンバー
【連載特集】


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       民法改正 中小企業が気を付けるべきポイント
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      第1回 「民法改正の概要/債権法改正と相続法改正」

1 はじめに
 「民法」という法律をご存知でしょうか。私人同士の権利関係について定め
た一般的・基本的な法律で、契約や家族・相続について定められています。個
人のプライベートに関する規定だけでなく、事業に影響する規定も存在してい
ます。
 この民法のうち、契約や権利関係について定めた債権関係と呼ばれる分野に
ついて、明治29年(1896年)の制定以来の全般的な見直しが行われてい
ます(ここでは「債権法」と呼びます)。
 また、民法の相続に関する分野も、昭和55年(1980年)以来の大きな
改正がされています(ここでは「相続法」と呼びます)。
 現時点で民法は既に改正されているのですが、今回は、(1)改正の方向性と、
(2)改正前の民法と改正後の民法との使い分け、つまり施行日と経過措置につい
て解説します。

2 改正の方向性/債権法
 債権法は非常に古くからある法律ですので、現在の社会・経済の変化に対応
させるとともに、分かりやすさを向上させるため、過去の裁判例や学説・実務
の慣行を条文として明記した改正が多くなっています。
 その点では実務においてこれまでと大きな変化はありませんが、一部の制度
について、大きく変更されている点もあります。詳細は第2回以降でご紹介し
ます。

3 施行日と経過措置/債権法
 債権法の改正の施行日、つまり改正後の債権法が適用されるのは、2020
年4月1日からです。
 ただし、同日より前に行われた行為や契約等に対しても突然改正後の債権法
が適用されることになるわけではありません。基本的な考え方としては、20
20年4月1日以後の行為・契約等に基づくものには改正後の債権法が適用さ
れ、それより前の行為・契約等に基づくものについては改正前の債権法が適用
されることになります。たとえば、2020年1月1日に締結された契約があ
れば、その契約について改正後の債権法の施行日後である同年5月1日に紛争
になったとしても、改正前の債権法に則って解釈・解決が行われます。そのた
め、施行日以後も、改正前の債権法が不要になるわけではありません。
 なお、いくつかの制度については別途経過措置が設けられており、基準とな
るのが2020年4月1日ではないことに注意してください。このうち、「保
証」については第3回で取り上げる予定です。

4 改正の方向性/相続法
 相続法の改正は、高齢化社会の進展等の社会経済情勢の変化等に対応するた
めに行われました。大きな柱は、(1)配偶者保護の制度を設けたこと、(2)遺言
の利用を促進するための方策を盛り込んだこと、(3)相続人を含む利害関係人の
公平を図るための見直しをしたこと、です。そのため、債権法の改正と異なり、
新しい制度も複数設けられています。
 第6回では、このような相続法の改正のうち、事業承継対策に影響がある改
正内容をご紹介する予定です。

5 施行日と経過措置/相続法
 相続法の改正については、例えば遺留分に関する改正などが、原則として2
019年7月1日から施行されています。
 ただし、自筆証書遺言の方式緩和に関する改正については2019年1月1
3日から、その他の例外規定についても、2020年4月1日から施行されて
います。
 基本的な考え方としては、施行日前に被相続人が亡くなった場合については
改正前の相続法を、施行日以後に被相続人が亡くなった場合については改正後
の相続法を適用することとされています(例外あり)。 

6 弁護士への相談窓口
 弁護士に相談したいときは、相談受付窓口として、「ひまわりほっとダイヤ
ル」があります。弁護士への法律相談が初回30分無料となります。詳細は下記
リンクをご参照ください。  
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         第2回 「債権法改正/消滅時効」

1 はじめに
 今回は、「消滅時効」(一定期間放置していると権利が消滅する制度)について、
民法の改正によりどう変わったかをご紹介します。

2 改正前は複雑な制度でした
 民法が改正される前は、債権の原則的な消滅時効期間は、権利を行使することが
できるとき(支払期限など)から10年間と定められていました。
ところが、「商行為」による債権の消滅時効期間は5年間とされ(商法522条本文)、
さらにその例外として、旅館や飲食店の代金や運賃などは1年間、私達弁護士の報
酬は事件終了後2年間とされるなど、債権の種類によって消滅時効期間がバラバラ
で、わかりづらい制度になっていました。
 消滅時効が完成してしまうと、債権者は権利を失ってしまうことになるのに、い
つ消滅時効が完成するかがわかりにくいのでは、私達は安心して経済活動を行うこ
とができません。

3 改正後はシンプルな制度に
 改正民法は上記のような複雑な消滅時効制度を廃止しました。
 そして、債権が時効によって消滅するのは、(1)「債権者が権利を行使すること
ができることを知った時から5年間行使しないとき」、又は(2)「権利を行使する
ことができる時から10年間行使しないとき」のいずれかの場合ということを原則と
して定めました。改正前の民法では、債権者が「知っていた」かどうかは問題にな
りませんが、改正民法では、権利行使可能なことを知ったときから5年間で消滅時
効が完成することを新たに定めました。また、これに伴い、上記2で挙げた商法522
条も削除されています。
 例えば、売掛金を例とすると、通常、売掛金には支払期限を定めていますので、
その支払期限が「権利を行使することができる時」になります。そして、債権者は、
支払期限がいつかを知っているはずですので、改正民法の下では、売掛金は支払期
限から5年の経過で消滅時効が完成することになります。これが(1)です。
 改正民法では、このほか、債権者が「知っている」かとは関係なく消滅時効が完
成する(2)の規定も用意しています。もっとも、通常は、債権者は権利行使可能な
ことを知っていることが多いため、支払期限から5年の経過で消滅時効が完成する
と覚えていただければ宜しいかと思います(ただし、人の死亡や負傷による損害賠
償などでは例外もあります。)。
 なお、紙幅の関係で紹介にとどめますが、消滅時効の進行を止める制度として、
裁判上の請求などの時効の完成猶予、債務の承認などの時効の更新(時効期間のリ
セット)があります。

4 経過措置にご注意を
 法律が改正される場合には、通常、改正前法と改正法のどちらを適用するかを決
める「経過措置」が定められます。
 改正民法でも経過措置の規定があり、消滅時効に関しては、2020年4月1日よりも
前に債権が発生していれば改正前の民法が適用されることになっています。
 例えば、2018年4月1日に、返済期限を同月30日と約束して友人に50万円を貸した
とします。この場合、貸主(債権者)が権利を行使できる(返済を請求できる)の
は返済期限である2018年4月30日からとなり、改正前民法では、その日から10年間
(2028年4月30日)が経過した時点で消滅時効が完成します。
 この債権は、2020年4月1日よりも前に発生していますので、改正民法が施行され
ても、その影響を受けることはなく、2028年4月30日の経過により消滅時効が完成
することになります(2023年4月30日ではありません。)。

5 弁護士への相談窓口
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          第3回 「債権法改正/保証」

1 はじめに
 今回は、「保証」(制度)について、民法改正によりどう変わったかをご紹介し
ます。

2 保証人の保護の観点からの改正
 「保証」分野の改正については、保証人の保護の観点から、多くの条文が改正、
新設されています。ここでは、特に経営者に影響が大きいと考えられる3点につい
て、説明します。

3 個人の根保証では極度額を定めることが必要
 「丙(保証人)は、乙(賃借人)と連帯して、本賃貸借契約から生じる乙の債務
を負担する」と記載された不動産賃貸借契約書を使用している方、いらっしゃるの
ではないでしょうか。
 このような不動産賃貸借の場面に限らず、主債務者の将来の取引等に伴う不特定
の債務について保証する契約を“根保証”と言います。
 改正前の民法では、貸金以外の債務の根保証について極度額(保証人が負う上限
額)を定めないことも認められていました。しかし、今回の改正により、貸金の場
合と同様に、保証人が個人の場合(法人の場合には適用が無い)、極度額を定めな
ければ、根保証契約は無効になると規定されました(改正法465条の2第2項)。
保証人が予期せぬ過大な負担を負わないための改正です。
 この改正により、今後、新たに締結する、あるいは、更新する賃貸借契約、労働
契約(身元保証契約がある場合)、継続的取引契約、介護施設等の入居契約等で、
保証についての定めをしている場合、極度額を定めていなければ、当該保証契約部
分が無効となってしまう可能性があります。これらの契約書を使用されている場合
には、契約書を見直しておく必要があります。

4 第三者保証人の場合に保証契約に公正証書が必要になる
 改正前の民法では、保証契約を締結する場合に、公正証書を作成する必要はあり
ませんでした。しかし、改正民法では、事業のための貸付け等について、当該事業
への関与の程度が強い人物(会社の場合には取締役、個人事業主の場合には、共同
事業主等)以外の個人(法人の場合には適用が無い)が保証人となる場合、当該保
証契約の締結前1ヶ月以内に、保証人となろうとする者が保証債務を履行する意思
を表示した公正証書(保証意思宣明公正証書)を作成しなければ保証契約が無効と
なる旨を規定しました(改正法465条の6)。経営から遠い立場にいる第三者が
安易に保証人となり、重い責任を負うことを回避するためです。
 今後、事業のための借入れに個人の第三者保証人を立てる場合には、公正証書を
作る手間や費用等がかかることを考慮しておく必要があります。

5 保証人に対する情報提供業務
 保証人を立てる場合、主債務者の側で特に気をつけなければならないことがあり
ます。改正民法では、主債務者が、事業のための債務等について、個人に(法人の
場合には適用が無い)保証を依頼する場合、当該保証人に対して、一定の情報を提
供しなければならず、仮に主債務者がこの義務を怠った場合には、保証人は保証契
約を取消すことができる旨が定められました(改正法465条の10第1項、2項)。
 この一定の情報とは、(1)主債務者の財産、収支の状況、(2)追っている他の債務
の内容、(3)提供する担保の内容等主債務者の支払い能力に関わる情報です。
 今後、事業のための債務について保証人になってもらう場合には、情報提供を行
った上で、後日保証人から取消しを主張されないよう、情報の提供、説明を受けた
旨の書面等を取り付けておく必要があります。

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         第4回 「民法改正の概要/契約総則」

1 はじめに	
 今回は、売買契約など商取引において適用される契約法の中から、債務者が義務
を履行しなかった場合における契約の解除や損害賠償について、主な改正点をご紹
介します。

2 契約の解除における債務者の帰責事由の要否
 契約の解除とは、相手方の意思に拘わらず、相手方に通知することにより当該契
約関係を解消することです。
 改正法では、債務者が期限までに債務を履行しない場合において、債権者が相当
の期間を定めてその履行の催告をした上で解除できること(催告解除)と、債務の
履行が不能であるときや履行を拒絶しているときに催告を要せず直ちに契約を解除
できること(無催告解除)が規定されております。
 この点、従来の民法では、契約の解除は債務者への責任追及のための手段である
と考えられており、契約を解除するためには、債務者の責めに帰すべき事由(帰責
事由)が必要であると解釈されておりました。
 しかし、いくら債務者に責任がなくとも、債務者の履行がないにもかかわらず、
合意が出来ないと契約関係を解消できないのであれば、債権者も依然としてその契
約に拘束され続け、代替先を探すなどの手段を躊躇してしまいます。そこで、改正
法では、契約の解除は債権者を契約の拘束力から解放するための手段という考え方
をとり、契約の解除にあたり、債務者の帰責事由は不要となりました。
 たとえば売買契約において、売主には全く落度がない事情により商品を買主に納
品できない場合、買主である債権者は、売主が履行することが不可能であるか、履
行を拒絶している場合は催告を要せず、そうでなければ、相当な期間を定めて履行
の催告をしたうえで、契約を解除し、他の取引先と安心して新たな契約を結ぶこと
が出来るようになりました。

3 契約違反の内容が軽微な場合
 改正法では、債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であ
るときは、契約を解除できないと規定されました。
 たとえば、売主が買主からの注文の大部分を納品したものの数量がわずかに足り
ない場合で、それでも買主が契約の目的を達成できる場合、契約上の付随的な義務
に違反した場合などが軽微にあたると考えられます。

4 損害賠償
 契約の解除とは別に、債務者は、契約の不履行について損害賠償責任を負います。
たとえば、新たな調達先から商品を調達されたことにより余計な費用が発生した場
合、商品の調達が遅れたことにより、商売の機会を逃して利益を失った場合などの
損害賠償責任が考えられます。
 この点、改正法では、債務者に帰責事由がない場合、損害賠償責任を負わないこ
とが規定されました。もっとも、従来の民法でも、明文で規定されていなくとも同
様に帰責事由が必要であると解釈されていたので、実務上の影響は無いと考えられ
ます。
 なお、遅延損害金等に適用される法定利率について、民法では年5%、商法では
商事法定利率として年6%と規定されていたものが、年3%に統一された上、法務
省令により3年を一期とする変動がなされることになりました。

5 施行日と経過措置
 改正法は、施行日である2020年4月1日以後に締結された契約に適用されま
すが、法定利率については、施行日前に締結された契約であっても、施行日後の不
履行については、改正法が適用されます。

6 弁護士への相談窓口
 契約の解除は、法律上の要件を満たしているかどうか、契約の解除を通知するこ
とにより、かえって損害賠償がなされるリスクの有無や程度など充分な検討が必要
です。
 弁護士への相談受付窓口として、「ひまわりほっとダイヤル」があり、初回30分
は無料です。詳細は下記リンクをご参照ください。
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           第5回 「債権法改正/契約2」

1 はじめに
 今回も「契約」に関するお話として、売買契約を例に、売主の「担保責任」の改
正をご紹介します。

2 瑕疵担保責任から契約不適合責任へ
 売買契約の目的物に、性能や数量不足等の欠陥=「瑕疵(かし)」があった場合、
旧法では、買主は、売主に対し、「瑕疵担保責任」に基づき、損害賠償を求めるか、
契約を解除することしかできませんでした。
 しかし、実際には、目的物に瑕疵があった場合でも、修理や代替物との交換等で
対応可能な場合も多くあります。
 そこで、改正民法では、「瑕疵」という言葉を、「引き渡された目的物が、種類、
品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」(契約不適合)に改めた上で、
買主は、売主に対し、「契約不適合責任」に基づき、損害賠償請求や契約の解除だ
けでなく、目的物の修補、代替物や不足分の引渡しによる履行の追完請求や、代金
の減額請求ができるようにしました。
 売主は、買主との契約上の義務として、契約で合意した内容(種類・品質・数量)
に適合した目的物を引き渡す義務を負っており、これを怠ることは一種の債務不履
行に当たるという考えに基づいています。
 そのため、請求できる損害の範囲も、旧法では、買主が瑕疵はないと信じたこと
により被った損害(購入代金準備のための借入金の利息など)のみと考えられてい
ましたが、契約不適合責任では、通常の債務不履行と同様に、買主が目的物を転売
すれば得られたであろう利益なども含まれます。
 さらに、旧法では、瑕疵担保責任の追及のためには、瑕疵が「隠れた」ものであ
ること、すなわち、買主が瑕疵の存在を知らず、そのことに落ち度もないことが必
要でしたが、改正民法ではこの要件が削除されました。ただし、買主が瑕疵の存在
を知っていた場合には、目的物が契約内容に適合しないとはいい難くなるでしょう。

3 契約書作成時の留意点
 売主が契約不適合責任を負うか否かは、目的物の種類、品質、数量が契約の内容
に適合していたか否かによって決まります。
 そこで、後日のトラブル防止のためには、契約書において、その契約の内容に適
合する目的物の種類・品質・数量がどのようなものであるかを、できる限り明確に
定めておくことが重要です。
 また、契約不適合責任は任意規定であり、当事者の合意によって民法と異なるル
ールを取り決めることも可能です。
 具体的には、売主の契約不適合責任自体を免除すること(ただし消費者契約法の
制限に注意)や、責任追及の要件として、旧法の要件であった瑕疵が「隠れた」も
のであることを要求することも可能となります。
 そこで、契約書では、売主・買主いずれの立場でも、契約不適合責任について、
改正民法と同じルールとするのか、異なるルールとするのかを意識して条項を考え
る必要があります。
 なお、改正民法では、契約不適合責任の期間制限に関し、「種類」や「品質」に
関する契約不適合の場合は、買主は、これを知った時から1年以内にその旨を「通
知」しなければ責任を追及する権利を失うとしている一方、「数量」不足の場合は
期間制限がありません。もし、改正民法と異なる期間制限としたい場合には、この
点も契約書に明記しておく必要があります。なお、会社同士の売買などの場合、商
法によって、改正民法よりもさらに短い期間制限(検査・発見後直ちに又は直ちに
発見できなくても6か月以内)が定められていますので、この点にもご留意くださ
い。

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               第6回「相続法改正」

1 はじめに
 前回までは、民法の債権法分野の改正について解説してきましたが、近時、相続
法の分野でも大きな改正がありました。
 改正の内容はいくつかの類型に分けられますが、今回はこのうち事業承継に大き
く影響する遺留分制度に関する改正を中心に解説します。

2 遺留分制度に関する改正
 遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に取得が保障される最低限の遺産の取り分で
あり、生前贈与や遺贈によっても奪われないものをいいます。
 遺留分が問題になる場面として、以下のケースをもとに考えます。

 A株式会社(非公開会社)のオーナー社長Bは、A社の全株式を保有している。
Bの妻は既に他界しているが、Bには長男Cと長女Dがいる。CはBの後継者含み
で社業に従事する一方、Dは一切社業に関与していない。

 仮にBが唯一の財産であるA社株式の全てをCに生前贈与したあとに死亡した場
合、DがAの財産を取得するためには、Cに対し遺留分減殺(げんさい)請求権を
行使し、遺留分に相当する財産を確保するしかありません。
 しかし、改正前の遺留分減殺請求権は遺産そのものに対する物的な請求権であり、
これが行使されると、A社株式はCとDの準共有となりました。そうすると、Dも
A社株式に対して権利を取得することになり、円滑な事業承継を困難にするととも
に共有関係の解消をめぐり新たな紛争を生じさせてしまうとの指摘がありました。

 そこで、今回の改正では、遺留分減殺請求を金銭の支払請求(遺留分侵害額請求)
に限定しました。この改正により、Dは、A社株式自体に対する権利を取得するこ
とはできず、Cは、A社株式に対する権利を確保した上で、Dの遺留分相当額の金
銭を自己資金や融資金(融資まで時間がかかる場合には裁判所に支払期限猶予の申
立てをします)をもとに支払うことで解決を図ることが可能になりました。なお、
いわゆる経営承継円滑化法では、民法の特例として、CとDの合意により、生前贈
与されたA社株式の遺留分対象からの除外や、A社株式の評価額を例えば贈与時の
ものに固定して遺留分算定の基礎とするなどの制度も設けています。

 ところで、改正前は、最高裁判例に基づき、相続人に生前贈与された財産のうち
生計の資本として贈与された財産などの「特別受益」に当たる財産は、特段の事情
のない限り、贈与の時期を問わず、全て遺留分算定の対象となるとされていました。
 しかし、そうするとBが亡くなる相当前にCに贈与したA社株式であっても、そ
の全てが遺留分算定の対象となり得るため、事業承継の安定性が著しく害されてし
まうとの指摘がありました。

 そこで、今回の改正では、相続人に対する贈与で遺留分算定の対象となるのは、
相続開始前10年間のものに限られることになりました。
 このため、10年単位で事業承継計画を立てることで、安定的な事業承継を実現
することが可能となりました。

3 遺言制度に関する改正
 今回の改正では、遺言制度に関する改正も行われ、遺言者自ら本文、日付及び氏
名の全てを自署し、押印することを要した自筆証書遺言について、相続財産の目録
(財産目録)に関してのみ、自署ではなくパソコン等で作成することが認められた
ほか、法務局で遺言書を保管する制度も今年7月10日から始まります。
 もっとも、遺言の有効性に関する紛争の防止には、公証人が関与する形式の遺言
(公正証書遺言)が望ましいことは今回の改正によっても変わりません。

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