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千葉県産業情報ヘッドライン

「千葉県産業情報ヘッドライン」バックナンバー
【連載特集】


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      下請(親会社依存)企業から自立型企業になる方法
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     第1回 下請企業の現状 〜 取り巻く環境変化と選択肢

 今回から3回、「下請企業から自立型企業になる方法」を特集します。

 近年、工場の海外移転や技術の急速な革新による製品改廃の早期化によって、
中小企業とりわけ下請企業の経営リスクが増大し、下請事業の「デメリット」が
従来以上に指摘されています。

 下請事業の最も大きいデメリットは「親会社の経営方針で業績が左右」される
ことです。下請企業は、親会社の事業方針次第で発注が一気にゼロになるリスク
があり、経営は常に不安定です。
 我国大手企業のグローバル化、ITやナノ技術などの技術革新の進展によって、
そのリスクは増大しています。

 ところが中小企業にとって、長年継続してきた現在の下請事業を抜本的に見直し
(変更)することは、「仕事の大幅減少」を覚悟して臨む必要もあり、なかなか
進捗しないのが現実でしょう。

 中小企業が、親会社の束縛や経営不安定性という状況を改善するにはどのような
方策をとれば良いのでしょうか。
 それには3つの選択肢があります。
 「非下請化」、「下請業務を維持し別取引開拓」、「現下請取引の深耕」です。

1.「非下請化」=完全自立化

 自立型の企業に変身し、新しい取引先と取引を行う「事業変更」です。
 この類型は、計画的に準備して自社製品に切りかえる企業が中心ですが、親会社
の方針などで急に取引が大幅に減少する下請企業も含まれます。


2.「現下請取引は維持し別取引を新規開拓」=順次自立化

 下請取引を維持しながら、親会社の許容範囲内で新しい販売先や別系列の親会社
を開拓することです。
 ネット化が進展し「ネット受発注」の拡大もあり、従来以上に新たな取引先開拓
が可能な時代になってきました。


3.「現下請取引の深耕」=下請内自立化(役割強化、地位向上)

 下請関係を維持したまま取引地位をランクアップするという「下請内自立化」
をめざすのも立派な自立化です。
 製品の企画段階から参画し、自社技術や企画を反映した仕事を自分で作り、受注
することです。

 これらの3つの選択肢に沿って中小企業が積極的に自立化を目指すときに、非常に
効果的な国の支援制度(補助金)があります。(26年度事業)

1.下請自立化補助金(申込期間 26年7月4日まで)
 
 対象は下請中小企業等の連携グループです。
 メンバー相互の「強み」を活かして共同で自立化の事業計画(新規発注企業開拓など)
を作成し、下請中小企業振興法に基づき認定を受けます。
 共同受注システムや試作・開発費などに対し最大2000万円(補助率2/3)の補助金が
受けられます。

http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/2014/140424shitaukekiban.htm


2.下請新分野進出補助金(申込期間 26年7月4日まで)

 対象は、親会社の経営方針などで売上が減少する下請中小企業・小規模事業者です。
 新分野進出にチャレンジする取り組み(新事業、試作・開発、展示会費用など)に
対し最大500万円(補助率2/3)の補助金が受けられます。

http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/2014/140424shitaukekaitaku.htm


次回は、「補助金の具体的活用方法および自立化ノウハウ」をご紹介します。





          第2回 補助金の具体的活用方法および自立化ノウハウ

 前回、下請企業の自立化への選択肢として、「完全自立型」、「順次自立型」、
「下請内自立型」の3パターンをお示ししました。
 今回はそれぞれのパターンについて、補助金の活用方法、自立化ステップを
整理してみましょう。

1.完全自立型

 「完全自立型」は、以下の2つのケースがあげられます。

(1)計画的に準備して完全に自立化するケース

 この場合はその準備段階が大変ですが、自社の「強み」を生かす製品・技術
戦略と販売体制づくりがポイントです。
 次回にその好事例をお示しします。


(2)親企業から突然取引の停止や縮小を通告されるケース

 親企業からの取引停止や縮小によって「消極的に完全自立化」するときは、
「下請新分野進出補助金」(最大500万円、補助率2/3)が使えます。
 補助金で新しい需要の開拓を行い、売上減少をカバーするのです。

 この場合は、補助金の活用によってホームページなどを徹底的に補強し、
マッチングサイトや展示会等「相手企業探し」の広報宣伝活動を積極化させ、
自社製品や独自技術・製法のアピールを強化することです。
 またこの補助金は、新しい取引先向けの試作品開発や新分野事業の開発資金
にも利用できます。

※下請新分野進出補助金の詳細については、以下URLをご覧ください。
http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/2014/140424shitaukekaitaku.htm


2.順次自立型

 2つ目の「順次自立型」は、現在の親企業と良好な関係を保ちながら、
新しい別の親企業などとの新規取引を始めるケースです。

 親企業も、激化する競争に勝ち抜くために下請企業が強くなることを望む
ケースが増加しています。
 下請企業のレベルアップが不可欠だからです。

 従って「順次自立型」の自立化ステップとしては、まず親企業と認識を一致
させて、下請企業の事業強化を行うという「コンセンサスづくり」が重要な
第一歩になります。

 下請企業による新しい取引先確保が、結果的に親企業事業にプラスとなるという
共通認識があれば、親企業も積極的に支援してくれます。

 親企業の支援や了解のもと、補助金は「下請自立化補助金」(最大2,000万円、
補助率2/3)が使えます。
 この補助金は、複数の下請企業がそれぞれの「強み」を有効に連携して、新たな
事業活動を行うという「特定下請連携事業計画」を作成し認定を受け、今回の
補助金など大きな支援措置の活用が可能となります。

※下請自立化補助金の詳細については、下記URLをご覧ください。
http://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/chusho/20140424shitauke_jiritsukakiban.html


3.下請内自立型

 3つ目の「下請内自立型」は、「下請内自立化」へのチャレンジです。
 この選択肢を利用できる企業は、ある程度限りがあります。
 下請会社の経営資源(人材、技術、ノウハウなど)の一部が親企業に対し優位
に立つ場合か、親企業に不足するときに選択可能です。
 設計段階から親企業社員と同じ立場で業務を担いますので、経営者間(会社間)
の信頼関係も極めて重要ですし、親企業が下請企業に任せやすい「ニッチ」な
分野であることも必要でしょう。
 従って、親企業の製造・開発部門の「弱い部門」や「新分野=未知の分野」
を常に観察し、「下請企業の強みが生かせないか」とチャンスを伺うことが最も
重要です。

 なお、上記の「下請新分野進出補助金」、「下請自立化補助金」は、26年度分
受付は7月4日までです。
 締め切りが間近に迫ってきましたので、希望する事業者は急ぎましょう。

 次回は、「積極的な自立化チャレンジで元気な中小企業(事例紹介)」です。





         第3回 積極的な自立化チャレンジで元気な中小企業(事例紹介)

 中小製造業などの仕事は、低成長、工場海外移転、技術高度化(IT化)に
よって、下請事業を中心に大きく変質してきています。
 今回はこのような経営環境の変化の中で、「自立化」をめざして事業改革に
挑戦する元気な中小企業をご紹介します。


1.「完全自立型」の下請企業自立化(株式会社日本クロス圧延様)
…加工賃事業から製品販売企業への脱皮

 (株)日本クロス圧延様(茂原市、岡征俊社長)は、ニッケルやチタンなどの
特殊鋼を圧延加工(最適サイズの板、棒などに加工)する企業です。
 従来はメーカーや鋼材商社から鋼材料の提供を受け、電子部品用鋼材などに
加工する「加工賃」事業が中心の下請企業でした。

 しかし、海外への工場移転増加に伴い仕事量減少が目立ちはじめ、加工賃
中心の事業から材料を保有し製品を短納期で自社販売する事業への転換を決断
しました。

 この事業転換には大きな壁が立ちはだかりました。

 ひとつは、少量多鋼種の材料を「自社在庫」する必要性です。
 もうひとつは自社販売のための営業体制の構築でした。

 この対策として、材料は「ひとつの鋼種は1サイズだけ保有」とし、注文の
度に希望サイズに圧延加工する仕組みを構築し、余分なサイズや在庫の保有を
圧縮しました。
 営業体制は、人員の新規採用する余裕もないため、ホームページ強化、展示会
の徹底活用で自社の知名度を引き上げる努力をしました。

 この間、二度にわたって「経営革新計画制度」を活用し、新規設備投資・在庫
投資・販路拡大(展示会強化)などの施策展開を行いました。

 この事業改革(自立化)によって、従来は受身=「待ち」の事業だったものが、
積極的に「少量多鋼種販売」できるようになり、お取引先数も一気に増加し、
業績も安定化しました。


2.「順次自立型」の下請企業自立化(サカキ産業株式会社様)
…「試作品事業」のスタートで、事業分野を拡大し自立化

 サカキ産業(株)様(八千代市、粂川欣厚社長)は、機械用の鋳造部品の切削
加工メーカーで、かつては大手機械メーカーの100%下請企業でした。
 近年はその他大手企業からの受注にも注力し、1社依存体制の改善は進みまし
たが、取引先の海外調達比率増大、コスト競争の激化などで全体の売上は低迷し、
将来への生き残り策を検討していました。

 折しも先代(現会長)から社長職を承継中の現粂川社長は、この機会を捉えて
当社の強みの技術力と高度な切削工作機械群を生かした新事業の進出を決断しま
した。

 その新事業が「試作品受託事業」です。
 技術的な優位性を生かせるため、現在の親企業(機械メーカー)中心に、
売込むことにしました。

 しかし、従来の下請工場が何もせずに「試作品受託事業」に進出するといって
も取引先は信用してくれません。
 新事業を本格的に進めるために、新規設備投資、工場内機械配置変更、工程
改革、試作品受託プレゼン、などあらゆる事業の見直しを行いました。

 平成21年には「経営革新計画制度」の千葉県承認も受け、三次元測定機、
新型NC機械等を導入し、生産工程もゼロベースで見直し、試作品製造工場と
して、「工場再生」を図りました。
 また、26年度も五面加工機の設備更新、大型ターニング機能付五軸加工機を
新規導入する予定です。

 この工場再生は、海外生産する大手メーカーの国内開発を強化する時期と
重なり、既存取引先を含めて多数のメーカーから支持を頂き、自立型企業として
の業績確保が出来るようになりました。


 以上、今回「完全自立型」「順次自立型」の2社をご紹介しました。2社とも
業績安泰期の改革ではなく、業績低迷期の思い切った決断です。

 「うちは業績が厳しいから先に延ばそう」ではなく、「いまだからこそ、
思い切って事業改革する」という経営判断こそ、重要な選択肢でしょう。

 
                    江塚経営研究所 代表 江塚 修
                           (中小企業診断士) 




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