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千葉県産業情報ヘッドライン

「千葉県産業情報ヘッドライン」バックナンバー
【連載特集】


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                  事例から学ぶ!
                中小企業におけるハラール商品開発の注意点
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        第1回 ハラール・ハラームについての基礎知識
 
 2020年の東京オリンピック決定に伴い、イスラーム圏観光客増加が予想される
こともあり、ハラール認証を獲得した上でのハラール商品(食品)の開発が注目
されています。
 ハラール認証を獲得するためには、イスラーム教徒が守るべき絶対的規範で
あるシャリーア法(イスラーム法)、ハラールとハラームの原則である意味や
コンセプトを十分に理解した上での正式な認証機関における講習及びハラール化
のプランが必要です。
 ここでは、ハラール食品に特化した話をしたいと思います。
ハラール/ハラームの意味を知らずして、話を前に進めることはできません。


(1)ハラールとハラームの原則と意味

 アッラーが創造したもので、「許されたもの」がハラールであり、「許されない
もの」がハラームです。

 ハラールであるものは、清浄・安全であること、人間の普通の理解・考え方で
「良いもの」とされます。

 その真逆にあるものがハラームとなります。
 豚とアルコールがハラームであることは多くの方がご存知かと思いますが、
その理由は「神が禁止したから」それ以上でも以下でもありませんが、現代的な
解釈をするなら、豚の場合、人間と体組織が近く似ていることから、インフルエ
ンザなど病気が移りやすい。
 アルコールについては「酒気帯び運転禁止」と同等で、酩酊することで人として
の理性が失われることで様々なリスクがあると考えられます。

 食品に関しては「疑わしきもの」として「シュブハ」と呼ばれるものがあり、
これはイスラームの原則に則った屠畜方法が取られたかどうか判断できない牛肉
や鶏肉などです。
 また、ハラール食品であっても物流の過程で、一般食品と混載されたもの、
豚、アルコールなど不浄(ナジス)なものを使用したまま清められていない(宗教
洗浄)可能性のある食器や調理器具を用いた疑わしきものも「シュブハ」として
避けなければなりません。

 このようにハラール化とは非常に厳格な原則があり、これを十分に理解した上で
ハラール認証を取得した加工場の中で商品を作らなければなりません。

 では、「ハラールな食品」とは、何かと言いますと、

1.イスラームの原則に則って屠畜された動物(牛、鳥、羊など)
2.野菜、果物、穀類、米
3.海鮮類(うなぎ、穴子などウロコのない魚もハラームとする宗派もある)
4.乳製品、卵
5.水

となります。

 例えば、ふぐは海鮮類ですが、丸物で毒があるうちはハラームで、私のような
ふぐ調理師が除毒をし、さばいたものであれば「ハラール」として食すことが
できます。

 ハラール和食がイスラーム圏の方達にも求められ、昨今ではローカル認証と
うたってムスリムの方達の求めに応じて提供する和食店も増えてきました。
 しかし現在、国内にはここまで述べてきた規範に基づいた厳格なハラール化
をされた店舗は存在していません。

 イスラーム圏の国、地域によって異なるハラール基準と文化的なものがあり、
最終的に口にするハラール食品は、それぞれの国、地域の人々が判断されること
と思いますが、本来シャリーア法に則った絶対的規範に基づいてハラール化さ
れた場所と食品を使用して商品やメニューを開発せねばらならいことは、言う
までもないことです。
 
 初回はまず、ハラール・ハラームの基礎知識を学んだ上で、次回はもう少し
踏み込んだ商品・メニュー開発の取り組み方を、説明していきたいと思います。






    第2回 食品、食品加工のハラール化(ハラール認証取得)について
 
 前回、第1回目でハラール及びハラームについての基本的な考え方、基礎知識
をお話しました。

 ハラール認証取得のためにはまず、イスラーム教徒が守るべき絶対的規範である
シャリーア法(イスラーム法)を十分に理解した上での取得プランを立てることです。
 非常に高いハードルですが、検討する企業が増加しています。

 世界のハラール産業には、加工食品・畜産・農産・飲食・ケータリング・医薬・
化粧品・アパレル・教育・金融・旅行等、様々なものがありますが、市場全体で
見ると食品と畜産だけで60%以上を占めています。
 これは、ハラール産業の中心が、食品事業であるということです。
 ハラール市場の規模は大変大きく、世界人口のうち18億人、約4人に1人が
ムスリムであり、アジア地域にそのうちの10億人以上が偏在しています。
 アラブ・中東地域はムスリム人口が圧倒しているエリアですから、ハラールが
当然のことで、それなしでは貿易も飲食店ビジネスもできません。
 また、マレーシアやインドネシアなど、ムスリムと非ムスリムが混在している
国家ほど、ハラール製品に対する関心が高く、当然のことながらムスリムはハラール
認証のマークが付いていない製品に手を出すことはありません。
 これらの国家は、経済成長も著しく、中間所得層人口の増大もあり、日本国内
の食品に関わる企業がビジネスチャンスと捉えて、続々、ハラール認証取得をと
検討しているわけです。
 
 
 ハラール認証を取得した企業がハラール化された場所と食品を使用して、食品加工・
メニュー開発に取り組みます。
 NPO法人日本ハラール協会と日本ムスリム協会は、マレーシア政府が発行する厳格な
ハラール認証に準じてハラール認証書を発行しますが、食品加工・メニュー開発
における前提条件として、食品の定義があります。


 「シャリーア法に基づき許された次の条件を満たす食品及び飲料、またはそれらの原材料」


(1)シャリーア法でハラールでないとされる動物のいかなる部分もしくは製品、
   またはシャリーア法に則って食肉処理されていない動物のいかなる部分
   もしくは製品が含まれていないこと。

(2)シャリーア法でナジス(不浄)とされるものが含まれていないこと。

(3)食べるのに適しており、無害で、中毒作用がなく健康を害することのないこと。



(4)シャリーア法でナジス(不浄)とされている器具を使用して準備、加工
   または製造されていないこと。

(5)シャリーア法で許されていない人体各部またはその派生品が含まれて
   いないこと。

(6)準備・加工・取扱い・包装・貯蔵・流通時には(1)〜(4)または(5)の
   いずれかの要件を満たさない他の食品、またはシャリーア法でナジス(不浄)
   と定められているその他のものから物理的に隔離すること。

 
 これらの定義を踏まえて、商品加工・メニュー開発に取り組まなければなりません。

 次回最終回は、個別の原料や調味料を使用した具体的な商品開発・メニュー
開発とハラール認証を取得した企業の現状等をお話しします。 






    第3回 日本の文化をハラール化する〜話題の「ハラール和食」とは〜
 
(1)ハラール商品(加工品)、ハラールメニューの開発について

 第1回目でもお話ししましたが、2020年には東京オリンピック開催が決定して
おりますので、世界中から来日される多くのムスリムへ向けた、ハラール食、
中でも「ハラール和食」を取り入れようという動きが活発化しています。
 普段、わたくしたち日本人が食べ慣れた和食、日本料理がグローバル化とともに
ハラール化されていくのは、需要が高まる中で自然な流れであると思います。
 ムスリムが食事にハラール性を求めるのは、イスラムの信仰そのものであるため、
ハラール商品、ハラールメニューについては、不安を取り除くことが大切であり、
食材・調味料などがハラールであることが明確でなければなりません。

 和食は基礎調味料として、日本酒・みりん・醤油・味噌・塩・砂糖・酢を使用
します。
 ハラール食はアルコールフリーが原則ですから、日本酒・みりんの使用は禁じ
られます。

 醤油・味噌・塩については、ハラール認証を取得したものがすでに国内品で
あります。

 砂糖・酢・みりん(甘味調味料)も輸入品は入手できますので、いつも通りの
使い方ができます。

 日本酒については、酒蒸しや漬け込み等アルコールの力を使用したメニューが
ありますが、多くの和食メニューのほんの一部に過ぎませんので、メニューバリ
エーションから外して考えれば良いと思います。

 みりんについては、和食では非常に重要な調味料であり特に甘味をつけるだけ
ではなく、見た目のテリやツヤにも生かされます。
 しかし、甘味付けやテリやツヤはハラール対応の砂糖でも、十分に代替できま
すので問題ありません。

 酢については既にハラール認証を取得した商品もありますが、柑橘類や果汁を
上手にアレンジすることで代替することができます。

 このように基礎調味料に関しては、ハラール化が進んでおりますので、味付け
の組み立て方次第で問題なく使用することができます。
 気をつけなければいけないのは、食材の方で、完全なポークフリーであること、
ハラール屠畜肉であることが求められます。
 豚肉を使用した製品は広く使用されており(ゼラチン、コンソメ、ブイヨン等)
ゼラチンなどは当たり前のように調理に使用してしまいがちですので、十分に
気をつけなければなりません。
 植物性または魚からのゼラチンで代替します。
 また、魚は基本的にハラールですが(一部を除く)養殖魚を使用する場合、
その餌になる原料成分にも注意をはらわなければならず、成長ホルモンを使用
したものは禁じられます。
 日本料理で使用するスッポンも両生類なので禁じられます。

 ハラール食品、ハラールメニューは、一つにイスラム法で合法であること
ですが、もう一つの意味として健康的、清潔、安全、高品質、高栄養価であること。
 したがって、ムスリムにとってのみ良いものではなく、食や健康への意識
を強く持っている人々にとっても健康的で良いものであると言えるでしょう。


(2)ハラール認証を取得した企業について
 
 ハラール認証を取得した企業のメリットとして、特にムスリム人口が圧倒
しているアラブ、中東地域の大きなマーケットとの貿易が行えることでしょう。
 しかし、温めればすぐに食することのできる利便性の高い加工品は別として、
和食の調味料等はその使用方法が全くわからない人達を相手にしていますので、
ソフトとして、使い方・メニュー提案などを行い、味も十分に理解してもらう
ことが重要です。
 残念ながら、認証は取得したがその後の活動・提案等が十分にできていない
のが現状です。
 基礎調味料のハラール認証を取得した企業でも、それを使用した商品開発、
メニュー開発までには至っておりません。

 一方、サービス業では、機内食を扱っている 千葉県成田市の(株)TFK様で、
シンガポール政府の承認を受け、ハラール認証(MUIS)を取得した厨房で
ハラールメニューを提供されています。
 成田空港内にも同じく(株)TFK様の、ハラール認証を取得したハラール
レストランがオープンいたします。(12月18日オープン)
 このレストランは、NPO法人日本ハラール協会の支援のもと、マレーシア
政府の承認機関JAKIMの認証を取得しております。
 ムスリムの予約に応じてハラールメニューを提供する形のローカルハラール
認証である、ムスリムフレンドリーレストラン(提供するメニューのみを
ハラール対応とする)とは違い、厳格なムスリムにも対応したハラールレス
トランです。
 和食の文化は非常に優れていますので、基礎調味料・材料の使い方・味の
組み立て方・保存方法などをしっかりとレクチャーし、提案していくことが
大切です。
 せっかく取得した認証を生かすためのアプローチが必要です。
 NPO法人日本ハラール協会は、和食のハラール化に関する提案や調理方法、
ハラール認証を取得した商品についてのメニュー開発にも対応しています。

 日本国内においても今後、増加するであろう在日・訪日ムスリムへの対応
として「ハラール和食」の需要が間違いなく高まっていくと思います。
 ハラール化するにあたっての設備投資等高いハードルをクリアしなければ
なりませんが、高まるニーズをチャンスとして捉えて、この機会に是非、
設備・メニューのハラール認証取得を検討してみては、いかがでしょうか。



           NPO法人 日本ハラール協会評議員
          (有)レザン研究所アール 代表取締役 嶋田 潤治



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