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千葉県産業情報ヘッドライン

「千葉県産業情報ヘッドライン」バックナンバー
【連載特集】


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       事例から学ぶ、地域資源を活用した商品開発のポイント
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                 第1回 地域資源活用による商品開発にむけて

 初めまして、株式会社ファーマーズ・フォレストの松本と申します。
今日から4回にわたり地域資源活用による商品づくりについてお話しさせていただきます。
 地方創生という言葉が身近になってまいりましたが、全国的な魅力ある地域資源の活用
による地域活性化は、まさに地方創生の原動力として注目されております。

 さて、皆さんは「地域資源」というと何をイメージされるでしょうか。私は仕事柄全国の
様々な地域をお伺いすることが多く、その際に「ウチの地域には何もないから」という言葉
をよく聞きますが、それは身近にある素晴らしい地域資源の存在やその利用価値に気付いて
いないだけのように感じております。
 変化が著しい現代社会の経済環境下では、どうしても「目新しさ」が求められる傾向が強く、
私たちは知らず知らずのうちに、普段から当たり前に存在する様々な物やコトに関する真の
価値に気付かない、即ち近視眼になりやすい状況を生み出します。

 わが国では平成19年の地域資源活用促進法、平成20年の農商工等連携法の施行を
うけて以来、地域資源に着目した商品開発の実践が推進されてきました。
 そして多くの農産物等を活用したジャムやコンポート、ドレッシングやソースなどが生み
出され、またB級品や未利用資源の活用などといった工夫とともに、一次産業の所得や付加
価値向上を目指す取り組みに対する意識も高まってまいりました。

 しかしながら現実的には、地域資源の活用が物質的な資源活用に留まり、地域の多彩な
オリジナリティを活かしきれていない事例が多いようです。
 またそうした地域資源を活用した商品の多くが、高コストで小ロットであるという特徴が故に、
地域の直売所や道の駅など限られた店舗での販売以上の広がりを見せておりません。
 その上でさらに、そのような店舗の棚を確保できたとしても、結果として類似商品が棚を埋め
尽くし、お客様が手に取ってレジを通過するまでには幾多のハードルが待ち受けております。             

 それでは一体、地域資源活用による「売れる商品」づくりとは何なのでしょうか?
 残念ながら、この問いに関する答えは一つではありません。
 但し、確実に言えることとして、いくら素材が良くても、品質が良くても、値段が安くても、
お客様が「手に取ってみたい動機づけ」の無い商品は「売れる商品」にはなれないということは
間違いありません。
 私が商品開発支援の現場でお伝えしている、押さえるべき3つのポイントを以下にお示し
したいと思います。

■商品開発の3つのポイント
1 生活者視点(買う人の視点)を意識する
2 多様な地域資源(物質資源に限らず生活文化、伝統、歴史的背景など)を活用する
3 出口戦略(販売先の想定)をしっかり描く

 1の生活者視点とは、即ち「動機づけ」のある商品づくりにつながります。
 2の多様な地域資源活用とは、即ち「ストーリー性」の創造です。
 3の出口戦略とは、即ち、「明確なターゲッティングと販売戦略」を意味します。

 商品開発と販売戦略には、マーケティングの考え方が欠かせません。
 マーケティングという言葉を聞くと、難しい理論であると思われる方が多いようです。
 小売の現場におけるマーケティングの実践は、現実的には「陳列棚からその商品を取りレジに
運びたくなる消費者心理の掴み方」と捉え体感する事で、その理解は一層深まるものと思います。
 このような点を踏まえ、次回からはこの3つのポイントに関して、事例を挙げながら分かり
やすく解説してまいりたいと思います。



         第2回 生活者視点(買う人の視点)を意識する

 今回からは、具体的な商品開発のポイントを解説してまいります。第2回目のテーマは
「生活者視点」即ち、買う人の視点に立った商品開発です。

 商品開発を実施している現場で陥りやすい事例として「プロダクトアウト」という単語
を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
 このプロダクトアウトという単語を検索してみると、作り手の論理や計画を優先させる
方法と書いてあります。即ち「作れるものをつくる」という発想による商品開発を意味し
ております。

 例えば、皆さんはイチゴを使った加工商品というと、どのような商品が思い浮かびます
か?という質問をした場合、真っ先にジャムが思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。
 地方の直売所や道の駅を訪れると、同じような容器に詰められた、同じような価格帯の
ジャムが数多く並んでおります。そしてパッケージには大抵「こだわりジャム」なる表示
を目にします。

 しかしながら、その「こだわり」の理由を客観的に説明できる製造者は残念ながら多く
ありません。さらに、商品開発も「ジャムだったら作ることができるから」「イチゴの商
品開発といって思いつくのはジャムくらいだった」という動機づけが実に多いものです。
なかには「ウチのジャムは世界一のウマさだから」という理由もよく聞きます。
 まさにプロダクトアウトとはこうした製造者視点による商品開発をいいます。

 一方で、「売れる商品」とはどのような商品でしょうか?
 実のところ、その明確な答えは一つではありません。何故なら、人によって趣味嗜好、
ライフスタイルや価値観など千差万別であるからです。
 しかしながら、地域資源活用の商品開発は、大量生産型の商品とは違いあくまでも万人
向けである必要はなく、寧ろ、買ってもらいたいターゲットを絞った商品開発こそが「売
れる商品」への近道となります。

 要するに「売れる商品」づくりとは、その商品の購買者を具体的に想定し、そのターゲ
ットとなる購買者が「買いたくなる」動機づけのある商品づくりです。
 その購買者の価値観やライフスタイルを想定し、量目やパッケージ、価格、こだわりの
伝え方などを総合的に検討することが重要になります。
 即ち「作れるもの」をつくるのでははく「求められるもの」をつくるという発想が生活
者視点であり、その概念は、生活感や消費購買行動まで一歩踏み込んだ切り口であるとい
えます。

 また、生活者視点の商品づくりにおいてネーミングも重要な要素となります。
 例えば、お米を事例にして紹介すると、通常「〇〇産コシヒカリ」のように産地と銘柄
を表示して販売することが一般的ですが、商品に込められた生活者に対するメッセージに
は乏しい表現であるといえます。

 同じお米を、生活者視点のネーミングにした場合の一例をご紹介します。

「冷めてもおいしい、おにぎりに合うお米」

 どうですか。「買ってみたい」という動機づけになった方もいらっしゃるのではないで
しょうか。
 このように生活者視点を意識する事とは、想定した生活者に対して、しっかりとしたメ
ッセージを分かりやすく伝えることでもあります。

 最後に、こうした要素を取り入れた商品開発の事例をご紹介させていただきます。
 ご紹介する「京都八代目義兵衛」は、京都にあるこだわりの米屋です。代表取締役の橋
本社長は本当においしく甘いお米を一人でも多くの人に伝えるため、米の価値観を変える
会社として、自らの米栽培をはじめ、米食味鑑定士及び5つ星お米マイスターの目利き力
を活かして、厳選米や食事内容に合ったブレンド米による京都をイメージさせるお米のギ
フト商品の開発などを行っております。

 ご紹介する商品は、ターゲットの絞り込みと、贈答用としての使い方を徹底した、まさ
に生活者視点を意識したお米の贈答ギフトの一例です。
 
 詳細につきましてはこちらのサイトをご覧ください。
 「京都八代目義兵衛」
 http://www.okomeya.net/iro/

 生活者視点(買う人の視点)について、イメージしていただくことは出来ましたでしょ
うか?
それでは次回は、「ストーリー性」の創造についてお届けしたいと思います。



           第3回 多様な地域資源を活用する


 地域資源を活かした商品開発のポイントもいよいよ第3回目となりました。
 今回は、多様な地域資源活用による「ストーリー性」についてのお話です。

 商品開発の場面などで、「ストーリー性が欲しい」というような会話をよく
耳にします。
 しかしながら、そのストーリー性というフレーズは気軽に使われる表現であ
る反面、具体的にはイメージしにくいのではないでしょうか。

 皆さんは、本年4月に文化庁により初認定された「日本遺産」というものを
ご存じでしょうか。この「日本遺産」は、厳しい保全体制と普遍的な価値の説
明が求められる世界遺産とは異なり、点在する遺産を「ストーリー立てして関
連付けする」ことで地域の魅力を強く発信し、観光資源の掘り起こしや地域活
性化を狙う目的があるようです。
 このように昨今「ストーリー性」の重視は、商品開発だけに留まるものでは
なく、地域活性化などの分野でも販売促進やブランディングの材料として注目
されております。

 実はこの「ストーリー性(物語性)」とは、第2回目で解説した「生活者視
点の商品開発」の延長にあるとても大切な考え方であり、購買の動機づけ、
即ち、お客様の心を動かす重要な要素となるものです。

 一例をご紹介しましょう。千葉県在住者の方であれば「銚子電鉄のぬれ煎餅」
という商品をご存じの方も多いのではないでしょうか。

銚子電鉄のぬれ煎餅
http://chodenshop.com/shopbrand/002/O/order/

 この商品は、銚子電鉄が副業として製造販売している商品ですが、そのエピ
ソードが有名で、慢性的な経営難により廃線危機に瀕していた電鉄の従業員が
「電車の修理代を稼がなくてはいけないんです」という前代未聞のフレーズを
WEBサイトに掲載して以来、たちまちブレークし廃線の危機を救ったとされ
る商品です。
 これは「銚子電鉄廃線危機のストーリー」が人々の心を動かし、「乗り越え
る支えになりたい」という購買の動機づけにつながったものであるといえます。

 次に、歴史的背景を活用した事例をご紹介します。東京新橋にある御菓子司
「新正堂」は、赤穂浪士の討ち入りで有名な泉岳寺にほど近く、浅野内匠頭が
切腹した田村右京大夫の屋敷跡地付近で創業していることから、そうした歴史
的背景をモチーフにした和菓子を製造販売しています。
 その中でも「切腹最中」という商品は、今や通のおもたせとして知る人ぞ知
る有名な最中です。ブレークした理由の一つに、ビジネスマンがクレームの詫
び菓子に「切腹して詫びる所存です」と差し出し事なきを得たという噂が広ま
り、今では詫び菓子としての知名度が高い商品となっています。商品開発の物
語から名づけられたネーミングから、利用者のライフスタイルが意図もしない
効用を生み出した、云わばストーリー性がもたらす副次的効果といえます。

新正堂
http://www.shinshodoh.co.jp/index.htm

切腹最中
http://temiyage.gnavi.co.jp/wagashi/002/

 このようにストーリー性の活用は、商品の本質的素材のみではなく、伝統文
化や歴史的背景、人々の生活習慣など、多様な地域資源やライフスタイルを活
用しながら利用者や購買者の「共感」をつかむことを前提として、物質だけで
は表現できない伝えたいメッセージや本質性を、いかに連想させることができ
るかがポイントなのです。
 メッセージから連想させる伝え方は、商品CMやポスターなどにも多用され
ております。
 例えば有名な俳優と女優が夫婦役になり「京都のお茶のある暮らしや文化」
を表現することで、上質なお茶の本質性を描き出すサントリー伊右衛門のCM
をご覧になった方も多いのではないでしょうか。印象に残るメッセージとは、
意外と商品そのものよりも、その商品の本質的なコンセプトや背景を伝えるこ
とが重要で、結果として購買の動機づけへの近道となっております。

 今回ご紹介した「ストーリー性」には、実に豊かな表現の可能性があること
をお分かりいただけましたでしょうか。
 千葉県には農水産物はもとより、歴史的背景や文化財、伝統、風習、観光名
所や自然など、活かせる地域資源は実に多彩です。皆さまの商品開発のプロセ
スにおいて、是非ともそうした地域資源を自由に活用しながら「伝えたい相手
の心に届く想いの伝え方」を考えてみてはいかがでしょうか。ストーリーの種
は、意外と身近なところから見つかるものです。

 次回はいよいよ最終回、出口戦略をしっかり描くことについてお話しさせて
いただきます。



           第4回 出口戦略をしっかり描く

 地域資源を活かした商品開発のポイントもいよいよ最終回となりました。
 今回は販売先の想定に関してお話ししてまいります。

 「出口戦略」を検索すると、一般的には軍事戦略上や経済政策上の用語として
表示されるため、イメージしにくい方もいらっしゃるかもしれません。サービス
・流通分野でいう出口戦略とは、作られた商品やサービスを利用消費に結びつけ
る仕組みのことを指します。即ち販売戦略を広義で捉える表現として、消費サイ
ドから生産サイドの戦略を具体的に練ることです。
 私自身も長年様々な場面で便利に使ってきた用語ですが、生産を入口、消費を
出口とするイメージが比較的につかみ易いためか、最近では「出口戦略」という
言葉も各所で使われることも多くなり、耳馴染みが出てきたように思います。

 いままで地域資源を活用した商品開発のポイントと称して、「求められる商品
(=売れる商品)」を生み出す秘訣をお伝えしてまいりましたが、第2回目の生
活者視点の意識も、前回のストーリー性も、全ては生活者(消費者)の購買動機
付けを得ることであり、即ち、すでに出口戦略のプロセスについてお伝えして来
たということになります。
 今回お伝えする販売先の想定は、そうした出口戦略の根幹をなす販売戦略の重
要な要素です。

 例えば、地方の相談会などで、よく「この商品を東京で売りたい」という相談
を受けることがあります。そうした生産者の方に「何故東京で売りたいのか?」
と尋ねると、「東京にはお客様になる人が多いから」「地元では売っても、たか
が知れている」などという回答がよく帰ってきます。

 確かに東京を代表する大都市圏は、人口が多く顧客になり得るターゲットが多
いのも事実と云えます。しかしながら、競合となり得る商品も多いことも念頭に
置かなければなりません。競合商品との差別化や優位性の工夫、サンプルや送料
などの販売経費、広域圏に商品出荷することに伴うリスク管理など、いわゆる地
元で販売する以上に投下費用負担も大きい上に、前提として数多ある競合商品の
中から選ばれる強い商品力が求められます。

 大都市圏は魅力的なマーケットであることは確かではありますが、大都市だか
らということで必ずしも売れる万能なマーケットは存在しないという認識が必要
です。同じ商品を投入しても販売先の業態や立地条件によって得意とするターゲ
ット層も異なるため、商品によっては寧ろ地元でしっかり販売して売り切る努力
をした方が、結果として良いというものも少なからず存在します。

 販売の想定とは、上記に示したように「場所も変われば、売れる商品も違う」
ということをしっかりと認識して、自社商品の特徴を活かした販売先や販売チャ
ネルの見極めを行うこと。加えて、販売先の持つ顧客の特徴や傾向から商品の量
目やパッケージを変えるなどといったマーケットに対する細かな配慮を行うこと
も重要な視点です。
 よく商品試作段階で行うテストマーケティングがありますが、これこそ、生活
者(消費者)の声を直接聞けることから、具体な標的顧客や販売先の想定、ニー
ズの把握などを行い商品の微調整を行う機会であり、開発プロセスに不可欠なマ
イルストーンといえます。

 つまり出口戦略をしっかり描くこととは、具体的な標的顧客のイメージをもっ
て、商品開発、販売戦略の両方の側面からのアプローチで商品開発を行うことに
他なりません。そしてそのような開発手順を踏んで生み出された商品ほど、消費
の現場における認識の溝を埋め、「手に取りたくなる」動機づけがある商品につ
ながることになります。

 簡単ではありましたが、出口戦略の意味と重要性をご理解いただけましたでし
ょうか。また今回まで4回にわたり地域資源を活かした商品開発のポイントをお
伝えしてまいりましたが、メールマガジンの制限された文字数の中でお伝え出来
たポイントは限られております中で、少しでも皆さまのお役に立てたなら嬉しく
思います。

 結びに、本年、地域資源活用促進法の一部改正により、幅広い地域産業資源を
活かした「ふるさと名物」をテコに地域活性化を図るための、様々な地域ぐるみ
の取組みへの促進強化が図られてまいります。千葉県でも地域資源を活用した新
商品・サービス開発支援の様々メニューが用意されております。是非、豊富な千
葉県の地域資源を活用して、一人でも多くの方が新たな「ふるさと名物」づくり
に挑戦され、継続した千葉県の地域活性に結び付くことを祈念しております。

 最後までお読みいただき有難うございました。


            株式会社ファーマーズ・フォレスト
                       代表取締役社長 松本 謙


              
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