株式会社国際情報ネット 会長 尾形 廣秋
第1回「デジタル化『あったらいいな』を探しましょう。」(2025/7/17発行 第1022号 掲載)
第2回「課題を洗い出し、優先度の高いものからデジタル化に挑戦」(2025/7/31発行 第1024号 掲載)
第3回「拠点のオンライン化による一元管理の効果」(2025/8/14発行 第1026号 掲載)
第4回「属人化しているデジタル情報を一元集中管理して共有化しましょう」(2025/8/28発行 第1028号 掲載)
第5回「取引企業電子化で苦慮する小規模事業者の実態」(2025/9/11発行 第1030号 掲載)
株式会社国際情報ネットの尾形 廣秋と申します。中小企業が無理なく取り組めるデジタル化のポイントと、現場目線の活用方法についてお伝えしていきます。
ITは今や中小企業にとっても必要不可欠な存在であり、スマートフォンやパソコンは日々の業務開始の合図として当たり前に使われています。しかし、社内課題や時間不足、IT操作への不慣れから「必要と分かっているのにデジタル化を進められない」という声が多いのも事実です。通信機器やネット環境が整っているのに活用しきれていない小規模事業者も少なくありません。
しかし、少子化や人手不足が深刻化する中で、生産性向上と売上確保のためにはデジタル化による業務改善が必須です。重要なのは「無理な計画を立てず、今必要なことから優先して取り組む」ことです。デジタル化を活用し、社内状況を正確に把握しながら次の戦略を描き、実行する力が求められています。
私自身が支援した現場でも、KPI(重要業績評価指標)や売上・利益などの数字を即時に把握できる体制を作ることが、企業の活性化と経営改善につながってきました。
現状の課題を洗い出し、優先順位を決め、「こんな仕組みがあったら便利だ」というところから小さく始めることをおすすめします。
例えば、多くの企業で課題となるのは人・物・金の管理です。これらが適切に把握できないと、日々場当たり的な対応となり、経理会計でBS・PL・CFの理解が曖昧なまま不安を抱えながら日々の業務を続けることになります。変化に対応し、想定外の事態にも備えるためには、経営数値を可視化し、日々のKPI確認を習慣化することが重要です。
そのための第一歩として、社内の基幹業務を整理し、以下のような取り組みからデジタル化を進めてみてください。
1.従業員管理(個人情報・勤務実績など)のデジタル化
2.見積・請求書発行の電子化によるペーパーレス化
3.在庫・発注管理の効率化
4.自社ホームページの活用で情報発信力を強化
これらは大きな設備投資がなくても始められます。大切なのは、自社に合ったペースで段階的に進めることです。
最後に、自社の成長を目指すには時代の流れに合わせた変化が必須です。そのためには、労力・時間・資金の投資が必要であることを理解し、恐れずに取り組むことが重要です。
次回以降は、県内の中小企業で私が伴走支援してきた具体的なデジタル化事例(外構インテリア卸売業、そろばん塾、建築設計事務所、東日本地域120病院での検診システム導入など)をご紹介していきます。
身の丈に合った一歩から、自社の未来を切り拓くデジタル化を共に進めていきましょう。
株式会社国際情報ネットの尾形廣秋です。
第2回となる今回は、事例も交えてお話します。
ITは会社繁栄の“カギ”となる存在であり、未来の成長を目指すためには、時流に沿って順応することが大切です。困りごとや課題を整理すると、デジタル化の必要性を実感されるのではないでしょうか。
ただし、検討にあたっては、すべての課題を一度に解決しようとせず、優先度の高いものから取り組むことをお勧めいたします。
例えば、表計算ソフト(Excel)を活用し、従業員の勤務状況(タイムカード)や見積書・請求書などの受発注書をデジタル化するといった、無理のない範囲から始めてはいかがでしょうか。
デジタル操作に不慣れでも、目的を明確にして、繰り返し取り組めば適応できるはずです。
重要なのは、導入初期には労力・時間・資金という3要素の投資が不可欠であることを理解し、我慢強くチャレンジを続けることです。こうした取り組みが、自社の将来の経営力向上につながります。
〇IT導入事例(事例1)
弊社が現在も保守・運用支援を行っている企業の事例をご紹介します。
千葉県内に6つの営業所を展開する外構工事・エクステリア施工部材卸売・施工企業の事例です。
IT導入以前、同社では仕入れや受発注処理をすべてアナログで行い、業務は紙ベース、外部との通信手段もFAXが主流でした。取引先メーカーの電子システム化により、デジタル化への対応が求められたことがIT導入のきっかけです。
社内には膨大な紙の受発注書があふれ、ペーパーレス化が進んでいませんでした。顧客対応もFAX中心で、用紙の紛失や棚卸し作業に時間がかかるなどの問題が頻発。
さらに、夕方以降の残業時間も膨らみ、業務効率化と可視化を目的にIT導入が決断されました。
現在では、6拠点の営業所の売上と社員の稼働状況を本社管理部門で一元管理できる基幹システムが構築されています。導入時には、現場社員のPC操作への不慣れさや作業ロスがありましたが、経営陣が主導して勉強会・操作説明会を繰り返し、安定した運用を実現しました。
〇デジタル化導入の進め方
社内課題を洗い出し、優先順位を明確にしながら一歩ずつ進めることが重要です。
すべての課題を一度に解決しようとすると学習や慣れが追いつかず、中途半端になる恐れがあります。
経営層側は、労力・時間・資金という3要素の投資が不可欠であることを理解し、社員と課題を共有しながら、無理のない取り組みを進めるべきです。大切なのは、目標に向かって粘り強く邁進する姿勢。
スピードや生産性を高めるためにも、デジタル化の導入は不可欠です。
次回(第3回)では、そろばん塾各拠点のオンライン化による一元管理の効果についてご紹介します。
株式会社国際情報ネットの尾形廣秋です。
第3回となる今回も、事例を交えてお話します。
近年、「オンラインシステム」や「ネットワーク」という言葉を耳にする機会は多いと思います。
しかし、多くの方は「大企業だけが扱う特別な仕組み」と思っているのではないでしょうか。
実際には、個人や中小企業の業務でも、インターネットを通じて仕事を進めることが当たり前になっています。例えば、SNSを使った情報共有や、複数拠点(営業所など)を持つ事業所、または取引先との連携において、スマートフォンやパソコンを活用し、社内LAN(Local Area Network)経由でインターネットに接続することも、オンラインネットワークの一形態です。
従業員との業務連携・情報共有を円滑にし、コストを最小限に抑えてネットワークを構築することで、業務効率化や予定・計画の管理が可能になります。以下に具体例をご紹介します。
・SNSの活用(例:グループLINEで関係者と情報共有)
・グループウェアの導入による稼働状況管理(無償版の活用も可)
→社内外を含む全社員の活動状況を把握し、同時に情報共有が可能。
複数拠点を持つ中小企業がオンラインネットワーク化を導入すると、離れた拠点の人員配置や稼働状況を全社で共有でき、管理の手間が省けます。スマートフォン対応のツールも多く存在します。
〇IT導入事例(事例2)
現在、全国46拠点を展開するそろばん塾において、拠点のオンライン化による一元管理・保守・運用支援を行っています。
導入前は、各拠点で生徒管理や講師勤務管理を紙ベースで集計していました。各拠点で表計算ソフトに入力したものを印刷し、それを本部で転記する方式でしたが、この手作業による転記ミスが発生し始め、事業拡大や新規拠点設置に影響が出始めていました。
そこで、オンライン自動化システムを導入し、全拠点の稼働状況をリアルタイムで把握できる一元管理ネットワークを構築。入力ミス防止と作業効率化を実現しました。導入時にはグループウェアも組み込み、全体の状況を可視化できる仕組みを整えています。
現在では、従来のサービス運営に加え、オンラインそろばんスクールも展開し、事業規模拡大に合わせた体制を維持しています。また、近年増加しているインターネット上のウイルスやサイバー攻撃への対策として、定期的な監視機能の強化やセキュリティ対策を講じています。弊社もこの分野で継続的に支援を行っています。
〇デジタル・オンラインネットワーク化導入の注意点
オンラインネットワークは、インターネットを介して外部と通信するため、情報漏洩のリスクを伴います。漏洩は重大な事故や事件につながる可能性があるため、以下のような対策とルール遵守が不可欠です。
・市販のウイルス対策ソフトを導入するか、最低限Windows Defender(Microsoft社提供の無償ウイルス対策ソフト)を有効化する。
・グループウェア内に、個人を特定できる情報を入力しない。
今回は、拠点のオンライン化による一元管理の効果と導入事例をご紹介しました。
次回(第4回)は、「紙CAD図面や電子データの保存による共有化・一元管理の効果」についてお届けします。
株式会社国際情報ネットの尾形廣秋です。
第4回も事例を交えてお話しいたします。
社員一人ひとりの端末に、顧客提示文書や社内共有文書が保存されたままになっていませんか。
取引先への提出資料をExcelやWordで作成し、メールに添付して送信することは現在では当たり前のコミュニケーション方法です。しかし、作成したデータの管理方法が社内でルール化されていない場合、個人端末に保存されたままとなり、最新情報の認識にズレが生じる可能性があります。
そのため、社内規程を整え、安全な保管場所を確保し、常に最新の情報を管理できる環境を整備することが重要です。属人化している業務を見える化・標準化することで、作業効率や生産性を大きく高めることができます。
〇環境構築の方法
まずは、クラウドを活用する方法があります。たとえば、Microsoft社が提供するOneDriveは5GBまで無償で利用可能です。他にも無償提供を行うベンダーがありますが、提供容量が少ない場合もあり、使い方には工夫と注意が必要です。また、社内LANが構築済みの事業所であれば、ファイルサーバ(NAS:Network Attached Storage)の導入をお勧めします。本機はパソコン1台程度の価格から市販されており、導入検討の余地があります。
NASを導入することで、大容量のデジタル情報を保管でき、すべての情報を社内で共有することが可能です。さらに、アクセス権限を設定することで、経営層はすべての情報にアクセスでき、一般社員は社内ルールで定めた範囲の情報のみ閲覧できるようにするなど、セキュリティ面でも確実な運用が可能となります。
〇社内規程の整備
次に、共有情報を整理するための社内規程を整備しましょう。情報の区分けの一例は以下のとおりです。
・業務データ(設計図面、画像データなど、業種により多様)
・庶務情報(見積書、納品書、請求書など)
・従業員管理情報(勤務表など)
・秘匿情報(個人情報など、厳重な管理が必要なデータ)
業種や業態によって管理内容は異なります。保存対象となる情報の管理項目を洗い出したうえで、社員が個々に保存している業務デジタルデータを一元管理するための設備環境や利用規約を策定し、確立していくことから始めましょう。
〇IT導入事例(事例3)
今回ご紹介するのは「紙CAD図面や電子データの保存・共有化」に取り組んだ事業所の事例です。
同事業所は、ゼネコンの元請けとして建築設備設計業を営んでいます。かつては紙の設計図面を基に業務を進めていましたが、現在はデジタル図面化が進み、さらに3D図面を一元管理できるNASを含めた環境構築を実現しました。NASを導入し、クラウドファイルサーバと併用して一元管理を行うことで、社内情報が可視化され、社内ルールに沿ったシンプルで効率的な情報共有が確立されています。
顧客や社員との会議においても、デジタル図面を基にオンライン会議で遠隔から共有でき、所要時間の短縮につながる効果を得ています。また、資産管理の面でも、社内ルールに基づきアクセス権限を設定し、上層部・管理職・一般社員ごとに適切な閲覧範囲を定め、セキュリティを確保しています。
さらに、インターネット上のウイルスやサイバー攻撃への対策についても、定期的に監視機能を強化し、完全な防御体制を構築しています。当社も継続的に支援を行っています。
〇属人化の防止と情報共有
顧客関連情報や社内共有情報を、個人端末で管理・保存していませんか。担当社員が不在の場合、最新データの確認に時間がかかり、最悪の場合は古い情報で対応してしまうリスクがあります。誤りを防ぐためにも、社内ルールを定め、情報の一元管理を実施することが重要です。
なお、情報共有には社内だけでなく、インターネットを介した外部との通信も含まれます。そのため、情報漏洩やウイルス感染への対策を常に実施し、ルールを順守して利用することが不可欠です。
次回(第5回)は「取引企業の電子化に苦慮する零細企業の実態」について、一元管理の効果を交えてご紹介いたします。
株式会社国際情報ネットの尾形廣秋です。
今回は、IT化の進展により取引企業との情報共有に苦慮している小規模事業者の事例をご紹介します。
これまで手書きやアナログ処理で行ってきた見積書や提案書などの基幹業務も、取引先からデジタルでの提示を求められることが増えてきました。こうした要請に戸惑う事業者も少なくありません。
弊社の顧客である小規模事業者の中には、社内IT化への対応が遅れているケースが数多く見られます。事業主自身が就業後に対応せざるを得ないことも多く、不慣れなパソコン操作が重なって、対応に苦慮する状況が続いています。
そこで注目されるのが、売上管理や労務管理など複数の業務を一元的にデジタル化できるERP(基幹管理)システムです。紙ベースで煩雑化している業務をシンプルな操作で統合できれば、生産性向上や営業力強化につながります。取引先も業務のスピード化を求めており、公共事業ではデジタル書面での入稿が努力義務化されるなど、デジタル化は避けられない流れになっています。
市販されているERPには多様な製品があり、見積書・納品書・請求書などの庶務処理、売上一元管理、統計、従業員管理、予定管理といった機能が含まれています。習得できれば大きな効果が期待できますが、自社の業務規模や運営状況に合わないものを導入すると、かえって操作が難しくなり、負担が増えるリスクもあります。そのため、自社に適したシステムを選ぶことが何より重要です。さらに、企業情報や個人情報を取り扱う以上、セキュリティ対策も欠かせません。実績と信頼のあるクラウドサービスを活用し、堅牢な仕組みを構築することが望まれます。
〇IT導入事例(事例4)
今回ご紹介するのは、従業員5人以下で大工、建具、卸売、リフォーム業などを営む小規模法人です。地域のIT化支援の一環として弊社が関わる中で、このような事業者は時間的余裕やスキル不足からIT化が進まない例が多く見られました。
この事業所も当初はデジタル端末を導入しましたが、運用方法が定まらず、業務フローも従来のままで改善には至りませんでした。単に端末を購入するだけでは、業務効率化にはつながらないことが明らかになったのです。
そこで弊社では、ERPを小規模事業者向けに最小構成に改良し、導入を支援しました。基幹業務の入力から登録までを弊社が受託し、事業者は手書き書類をFAXで送付、弊社がデジタル変換して登録します。登録されたデータはオンラインで閲覧でき、取引先との連携にそのまま活用できる仕組みを整えました。各事業所とは秘密保持契約(NDA)を締結し、安心して業務を委託できる体制を構築しています。
この仕組みにより、操作に不慣れな事業者でもデジタル化を進められ、負担を軽減しながら業務効率を高めることが可能となりました。
〇デジタル化がもたらす効果と進め方
社内情報管理のデジタル化は、単なる効率化にとどまらず、受注確率の向上にもつながります。紙やFAXでのやり取りを続けていると対応が遅れ、取引の機会を逃す恐れがあります。これに対して、デジタル化すれば迅速なレスポンスが可能となり、顧客からの信頼性も向上します。
ただし、いきなり全面的に導入するのはリスクが大きいため、段階的に進めることが望ましいです。自社の規模や状況に応じて導入範囲を絞り、地域のIT専門家や支援機関に相談することが有効です。業務の一部を外部委託する方法も負担を軽減する手段となります。千葉県産業振興センターなどの公的機関も相談窓口を設けていますので、積極的に活用されるとよいでしょう。
小規模事業者にとってデジタル化は課題も多い一方、正しく進めれば生産性や営業力の強化に直結します。適切なシステム選定と段階的な導入、さらに外部支援の活用が成功の鍵となります。
次回(第6回)は、「中小企業が求められるデジタル化、無理なく導入するためのノウハウ」についてご紹介します。
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