

株式会社プラスタスパートナーズ 代表取締役 荒谷 司聖
第1回「下請けが持つべきものと捨てるもの」(2025/10/9発行 第1034号 掲載)
第2回「それ、利益出てますか?未来を潰す安易な値付け」(2025/10/23発行 第1036号 掲載)
「この価格でお願いできますか?」
「はい、わかりました…」
言われた価格で、言われた通りにやる。それが下請けの流儀だという時代もありました。お金は二の次。相手の期待に応える仕事が信頼を生み、次の仕事につながる。特に製造業でよく耳にする話です。たしかになんだかカッコイイですが、それができていたのは当時の国内需要が右肩上がりで、部品を作ればすぐに引き合いがあった、市場全体が膨らんでいたという時代背景もあったように思います。
「下請けだから、言われた通りにやるのが当然」
「値上げなんて言ったら、次から仕事が来なくなる」
「うちは小さい会社だから、強く出られない」
価格交渉に踏み切れないのは、単に交渉力がないからではなく、価格は後からついてくるもの、カネの話を先にするなんて品がないという考えが根底にあるようです。「交渉力」以前に「交渉を避けている」とも言えます。
でもお客さんが1円でも安く仕入れたいと思っているなか、価格が自然とついてくるのを待っていて良いのでしょうか。薄利でもたくさん売れるから、いずれこちらも潤うなんてことがあるでしょうか。その間に原材料費、人件費、物流コストは軒並み上がっている。電気代も、保険料も、何もかもが上がっている。ただ待つだけでは潤う前に干からびることは目に見えています。昔のように「作れば売れる」時代でもないのです。
「企業努力」には限界があります。努力で吸収できる範囲を超えてしまったら、それはもうただの「やせ我慢」。時折テレビで目にする「値段は変えない。学生の笑顔が見られればそれでいい」と言う定食屋さんは、「持ち家」「家族経営」なればこそ。工場を借り、人を雇い、設備投資を続ける企業が真似してはいけない経営スタイルです。
やせ我慢の代償は、未来に必ずやってきます。働く人の待遇が改善できない。新しい機械が買えない。後継者が現れない。その時は利益が出ているように見えていても、数年たってみると実はお金が足りていない、そんな会社が多いのです。
発注企業の配慮を待つだけの「下請け根性」は今すぐ捨てましょう。持つべきは「下請けプライド」です。自分たちの技術やサービスに対する誇り、この価値を伝えたいという想いが交渉の支えになります。「うちがやっていることには価値がある。この価値に見合う価格でお願いしたい」という一言と、有言実行、価値ある製品づくり/サービス提供が両者にとってより良いビジネスを生み出します。
法律も世の中のムードも、環境は日に日に整ってきています。社会全体が「ちゃんと話し合おうよ」という空気になってきているいま、価格交渉に乗り出さない手はありません。
もちろん簡単ではありません。断られることもあるでしょう。嫌な顔もされるでしょう。それでも、言うべきことは言う勇気が、未来をつくります。自分たちの価値を伝える、未来をつくるために声を上げましょう。
次回は、「それ、利益出てますか?未来を潰す安易な値付け」というテーマで、
価格の問題にどう取り組むべきかをお話します。
今回のお話は「安易に値付けせず、その商品/サービスの価値をしっかり考えて欲しい」という内容です。いったん「立ち止まって考えて欲しい」という想いを込めています。
価格交渉をするにあたっては、まず「現行価格をベースにしよう」と考える方が多いかと思います。今の価格がどれくらいで、どれくらいのコストがかかっていて、どれくらいの利益が出ているか、それを理解してから交渉に臨もうというものです。これ自体は現実的で、至極まっとうだと思います。
でも、ちょっと待ってください。たしかに「どれくらいのコストがかかっていて」という部分は押えておくべき事実ですが、「現行価格」をベースにすることに妥当性はありますか?ひょっとして数十年前の、今となってはどうやって決めたのかもわからない価格だったりしませんか?せっかくの機会ですから、お客様の都合を抜きにして一度考えてみませんか?
「食うに困らないだけの利益が出ているから問題ない」
そんな声も聞こえてきそうですが、たとえば継続的に設備投資ができないような、働く人の待遇も改善できないような、継ぎたいと思ってもらえるほどの利益もないような価格になっていませんか?いまは利益が出ていても、それが「未来を潰している価格」なら適正とは言えません。今のコストをカバーするだけではなく、将来の投資、成長、変化に対応できるだけの余力を持っている、それが正しい価格です。
ところが、長年同じ価格で取引していると、「この価格が当たり前」という感覚が染みついてしまいます。特に、長く付き合っている取引先とは「お客様目線」で価格を決めてしまいがちです。「昔からこの価格だから」「前任者が決めたから」「競合がこの価格だから」--そんな理由で価格が据え置かれているケースがかなり多いです。
【適正価格の図】

もちろん、最終的に買うかどうかを決めるのはお客様ですが、価格を提示するのは売り手の仕事です。自社の価値をどう見積もり、どう伝えるか。それを放棄すると、価格交渉はただの「数字のやり取り」になり、事業は「今だけのもの」になってしまいます。
価格交渉は、相手を説得する場ではなく、未来を共有する場と捉え、「現行価格は本当に正しいのか?」という問いからスタートすることが大切です。
以上、今回は「値付け」について考えました。
次回は、「営業任せはダメ!価格交渉は経営のど真ん中」というテーマのお話しです。
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