

中小企業診断士 赤田 彩乃
第1回「なぜ今、小さな会社にスキルマップなのか ~採用・育成・定着を「点」で終わらせないために~」(2026/1/8発行 第1045号 掲載)
第2回「スキルマップとは何か~何を見える化するツールなのか~」(2026/1/22発行 第1047号 掲載)
読者の皆さま、こんにちは。
日頃、多くの中小企業の現場にお邪魔していると、業種や規模を問わず、必ずと言っていいほど話題に上がるのが「人」の悩みです。
「一生懸命求人を出しているのに、応募が来ない」
「せっかく採用しても、数ヶ月で辞めてしまう」
「評価の基準が曖昧で、社員に不満が溜まっている」
こうした課題に対し、多くの経営者は「採用」「教育」「評価」と、それぞれの場面で個別の対策を打とうと奮闘されています。
求人媒体を変えてみたり、外部研修に参加させたり、新しい評価制度を導入検討したり・・・。
しかし、現場を深く見つめてみると、実はこれらは別々の独立した問題ではありません。
一つの「根っこ」でつながっているのです。
その根っことは、「仕事の内容や、会社が個人に期待していることが、明確な言葉になっていない」という事実です。その結果、教える側・教わる側・評価する側の認識がズレたまま、現場が回ってしまっているのです。
例えば、入社したばかりの新人と、現場の教育担当者の間を想像してみてください。
新人は「何をどこまでできれば合格なのか」が分からず、常に不安を抱えています。
一方で教育担当者は「背中を見て覚えてほしい」と考え、教える内容や順序がその日の気分や忙しさに左右されてしまう。
こうした「言葉の不在」が、育成の属人化を招き、結果として新人の早期離職や、ベテランへの業務集中を引き起こしているのです。
支援先の経営者の方からは、よくこんな声をいただきます。
「課題が多すぎて、どこから手を付けたらよいかわからないんです」 「本当は人材の育成や教育、評価などの制度に力を入れたいけれど、毎日が忙しすぎて、そこまで手が回らないのが本音です」
そのお気持ち、本当によく分かります。
目の前の業務を回すだけで精一杯な中で、組織の仕組みづくりに時間を割くのは容易ではありません。
しかし、そんな会社にこそ「急がば回れ」と「スキルマップ」という道具を提案してきました。一度立ち止まって仕事を整理することが、結果的に日々の負担を減らす近道になるからです。
スキルマップとは、一言で言えば「仕事の内容」と「会社からの期待」、「各スタッフの到達度合い」を可視化し、一枚の表にまとめたものです。
経営者、現場のリーダー、そしてスタッフの三者の間に、「この仕事ができるとは、こういう状態を指す」という共通の認識を作るためのツールです。
【スキルマップイメージ】


「スキルマップ」と聞くと、なんだか大企業が使う難しい管理表のようなイメージを持たれるかもしれませんが、実は数名から数十名規模の「小さな会社」ほど、その効果は劇的に現れます。
なぜなら、小さな組織ほど「阿吽の呼吸」で回っている部分が多く、そこをあえて言葉にするだけで、情報の整理効果が非常に高いからです。
これまではバラバラの「点」でしかなかった採用・育成・定着の施策を、スキルマップという一本の線でつなぐ。
実際にスキルマップの導入を支援する中で、私も想像しなかったような使い方や効果も見られました。
本連載では、これから全6回にわたり、このスキルマップをどう活用していけばいいのかを、皆様と一緒に考えていきたいと思います。
立派な制度を作ることが目的ではありません。
会社が元気になり、みんなが安心して働ける環境を作るための「道具」として、スキルマップを捉え直してみませんか。
次回は、スキルマップとはどのようなツールなのか、その定義と基本的な構成について整理していきます。
読者の皆さま、こんにちは。中小企業診断士の赤田彩乃です。
前回は、中小企業の人材課題の根底には、仕事の内容や期待が言葉になっていない「期待の言語化不足」があること、そしてその解決策としてスキルマップが有効であることをお話ししました。
今回は、そもそもスキルマップとはどのようなツールなのか、その定義と基本構成について、具体的なイメージを交えて整理していきましょう。
まずは定義ですが、スキルマップは一言で言えば「従業員の能力・技能(スキル)を一覧にし、見える化した表」のことです。
本来の目的は、従業員一人ひとりの現在の能力を客観的に把握し、計画的な「育成」につなげることにあります。
その上で、リソースの限られた小さな会社においては、育成だけでなく、採用や定着にも活かせる点が大きな魅力です。
採用・育成・定着という、バラバラになりがちな三つの課題をつなぎ、社員同士や経営者との対話をスムーズにする「社内の共通言語」として機能させることが、活用において最も重要なポイントとなります。
スキルマップの基本構成は、とてもシンプルです。
基本的には以下の3つの要素で成り立っています。
〇縦軸:その職種や現場で必要とされる能力や技能
〇横軸:スタッフの名前
〇評価:縦軸と横軸が交わるマス目に記入する、各項目の習熟度(一般的には4段階評価)

例えば、スーパーマーケットの販売職を例に考えてみましょう。
縦軸には「対面販売」「陳列」「商品知識」「販売促進」「クレーム対応」といった、日々の現場で欠かせない具体的な業務項目を並べます。評価のためのレベル分けには、以下のような4段階の定義を用いるのが一般的です。

大切なのは、この形をそのまま真似することではなく、自社で使いやすいように工夫することです。
ある支援先の会社では、「当社はまだマニュアルもないし、できる・できないの判定だけではなく、指導を受けたかどうかの履歴も見える化したい」というニーズがありました。
そこで、レベルを以下のようにカスタマイズすることにしました。

これだけでも、「誰に何を教えたか」がひと目で分かるようになり、教育のムラが劇的に減る効果がありました。
能力や技能の洗い出し、レベルの設定ができたら、スタッフごとに習熟度に応じてマス目を塗りつぶしていきます。そうすることで、組織の状態がパッと浮き彫りになります。
「この工程はAさんしかできないな(属人化のリスク)」
「Bさんは商品知識は十分にあるけれど、それを販売促進に活かす経験がまだ足りない(次の育成課題)」
こうした気づきが、現場を動かす力になります。
よくある誤解ですが、スキルマップは「従業員の優劣をつけるための格付け表ではない」ということです。
そう捉えてしまうと、現場は「評価を下げられないように」と身構えてしまい、本来の目的である育成から遠ざかってしまいます。
スキルマップはあくまで、経営者とスタッフが「今の現状はこうだね」「次はここを伸ばしていこうか」と、未来について前向きに話すためのコミュニケーションツールとしてとらえてください。
この表があることで、これまで抽象的だった「頑張り」や「期待」が具体的な言葉になり、お互いの認識のズレが解消されていきます。
「うちの会社にはどんな仕事があって、誰が何を得意としているのか」。
それを一枚の紙に映し出すことから、本当の意味での人材活用が始まります。
まずはこの構造を理解し、完璧を目指さず、自社の現場での活用をイメージして「小さく」始めてみてください。
まずはお試しで始めてみる。
そして自社に合うように試行錯誤を繰り返していくことが、使えるスキルマップにするための秘訣です。
そのためにも、導入当初からいきなり給与や評価に直結させようとせず、まずは「会話の道具」として使い始めることをお勧めしています。
次回は、このスキルマップを、どのように「採用」に活かしていくのか解説します。
公益財団法人 千葉県産業振興センター総務企画部企画調整課 産業情報ヘッドライン
電話: 043-299-2901
ファックス: 043-299-3411
電話番号のかけ間違いにご注意ください!