

株式会社storyI代表取締役 猪俣 恭子
第1回 「私には無理」を超える日(2026/7/30発行 第1072号 掲載)
第2回 「わからない」ことに正直になった先にあるもの(2026/8/13発行 第1074号 掲載)
こんにちは。storyIの猪俣恭子です。
「女性管理職なんて、私には無理です」
企業研修やコーチングで、私はこの言葉を何度耳にしてきたことでしょう。
「責任のある仕事は荷が重い」
「人をまとめる自信がない」
「私より向いている人がいます」
そう話す方の表情には、どこか申し訳なさと諦めが入り混じっています。
でも私は、その言葉を聞くたびに思うのです。
本当に「無理」なのでしょうか。
それとも、「無理だ」と思い込んでいるだけなのでしょうか。
そう思うのには理由があります。
実は私自身、「一生できるようにはならない」と信じ込んでいたことがあるからです。
それは、車の運転でした。
学生時代に免許は取りましたが、運転は大の苦手。ガソリンスタンドに入るのも怖い。車線変更もできない。車庫入れなど考えただけで緊張してしまう。助手席に乗った父が、帰宅後に寝込んでしまったことさえありました。
それ以来、「私は運転ができない人」という思い込みを抱えたまま、十二年間ほとんどハンドルを握ることはありませんでした。
そんな私が再び運転することになったのは、義母の病院への送迎がきっかけでした。
「やるしかない」
そう腹をくくり、教習所の路上教習を申し込みました。
運転中、担当教官に聞かれました。
「どうして運転できるようになりたいの?」
私は事情を話し、学生時代に教官から言われた一言を打ち明けました。
「君の運転は危ない。大きな事故を起こすタイプだから気を付けるように」
その言葉が怖くて、それ以来ずっと運転を避けてきたことも。
教官は少し黙ってから、穏やかな口調でこう言いました。
「それはひどいことを言われたね。教官として、それは言ってはいけないことだ」その一言が、不思議なくらい深く心に届きました。
私は運転ができない人だったのではありません。
たった一人の言葉を、長い年月をかけて「事実」に変えてしまっていただけだったのです。
その瞬間、景色が変わりました。
緊張で浅くなっていた呼吸が深くなり、肩の力が抜ける。道路を走る車や歩行者、信号や標識が、それまでよりずっと鮮やかに見えてきました。
「今はまだ下手。でも、練習すればきっとできるようになる」
そう思えた日から、運転は少しずつ楽しくなりました。今では家族や友人から「運転うまいね」と驚かれるほどになりました。
私は、この出来事を思い出すたびに考えます。
私たちの可能性を閉ざしているのは、能力ではなく、「思い込み」なのかもしれない、と。
女性管理職も、リーダーも、きっと同じです。
「向いていない」
「自信がない」
「私には無理」
そう思っていることの中には、過去の経験や誰かの何気ない一言が、知らないうちに自分自身への評価になってしまっていることがあります。
もちろん、管理職になることだけが正解ではありません。
大切なのは、役職ではなく、自分らしく力を発揮できる場所を選び、自分らしく人と関わっていくことです。
だから、もし今、「私には無理」と思う出来事が目の前にあるなら、一度だけ自分に問いかけてみてください。
「それって、本当?」
その問いは、「できない私」を責めるためではありません。
まだ出会っていない自分の可能性に、静かに扉を開くための問いです。
「わたしらしさ」は、誰かと比べて見つけるものではなく、自分で決めつけていた限界を、少しだけ超えた先で出会うものなのかもしれません。
だから、どうぞ、はじめから完璧を求めないでください。
ささやかな一歩から。
あきらめず。
慌てず。
焦らずに。
こんにちは。storyIの猪俣恭子です。
「女性管理職なんて、私には無理です」
そう話す方に理由をたずねると、「経験がないのでわからない」「何を判断基準にすればいいのかわからない」「やり方が変わっていてわからない」と、「わからない」ことへの不安を口にされる方が少なくありません。
でも私は、「わからない」と感じること自体は、決して悪いことではないと思っています。
銀行に勤めていた頃のことです。
異動してきたばかりの上司がいました。穏やかな人柄で、私たちも「一緒に働きやすそうな方だな」と感じていました。
ところが、仕事を一緒にするうちに、「あれ?」と思うことが少しずつ増えてきたのです。私たちは、新しい職場に早く慣れていただけるよう、仕事の流れや注意点を丁寧に説明していました。それなのに、あとになって「えっ、そこが伝わっていなかったの?」と思うようなミスが何度も起こるのです。
そのたびに仕事はやり直しとなり、私たちの負担も増えていきました。
やがて職場では、こんな声が聞こえるようになります。
「わからないなら、そう言ってくれればいいのに」
「どうして、わかったふりをするんだろう」
いつしか私たちは、その上司との間に少しずつ距離を置くようになっていました。
今振り返ると、私たちが困っていたのは、その上司が「知らなかったこと」ではありませんでした。
「わからない」と一言、言ってもらえなかったことだったのです。
新しい職場、新しい役割、新しい立場。
そんな環境では、わからないことがあって当然です。
立場が変われば、なおさらです。
部下や相手より経験の浅い仕事もあるでしょう。初めて判断を任される場面もあります。
それなのに、「管理職なのだから知っていなければならない」「聞いたら評価が下がる」と思ってしまうと、人は「わかったふり」を選んでしまいます。
けれど、本当に信頼される人は、何でも知っている人ではありません。
わからないことを素直に認め、「教えてください」と言える人です。
そして、教えてもらったら、「ありがとう」と伝えられる人です。
私は、人は、正解をたくさん持っているから信頼されるのではなく、人とともに学び続けようとする姿勢によって信頼されるのだと思っています。
完璧な自分を演じるより、今の自分に正直でいること。
私は、その姿勢が、人からの信頼を少しずつ育てていくのだと思っています。
「わからない」は、未熟さではありません。
新しいことを学び始めている証です。
だから、わからないことを素直に認め、「教えてください」と言える人は、強い人なのだと思います。
そして、教えてもらえたら、『ありがとう』の一言も忘れずに。その一言が、相手との信頼をさらに深めてくれます。
さらに、「わかりません」と言えた瞬間から、一人で抱えていた仕事は、「一緒に考える仕事」へと変わります。
人は、頼られると嬉しいものです。
教えることで、自分もこの職場の役に立てていると感じられます。
だから、「わからない」は、人との距離を縮める言葉でもあるのです。
もし今、新しい役割や仕事の中で戸惑っていることがあるなら、無理に答えを探そうとしなくても大丈夫です。
まずは、勇気を出して一言。
「教えていただけますか」
その言葉から始まる信頼があります。
「わからない」と言えることは、自分の弱さを見せることではありません。
飾らない自分で、人と向き合うことです。
私は、それが、「わたしらしさ」の始まりなのだと思っています。
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